
秦野市蓑毛(みのげ)にある蓑毛大日堂では、2026年8月16日(日)に「閻魔詣(えんまもうで)」が行われます。閻魔王を含む貴重な文化財の仏像が観覧できるほか、紙芝居や限定御朱印などもあり、年に一度の特別な雰囲気を味わえる行事です。
今回、現地を訪ね、NPO法人はだの大日堂保存会の相原英二理事、東島礼美理事にお話を伺いました。
閻魔王と聞くと、亡者を裁いて地獄に落とす怖い存在という印象を持つ方も少なくないでしょう。ところが、実際に話を聞いてみると、蓑毛大日堂の閻魔詣は怖さだけで語れる行事ではないことが分かります。そこには、無病息災や延命長寿を願う祈りがあり、貴重な文化財を知ってもらい、未来へ残したいという思いがありました。
今回は、閻魔詣の見どころや蓑毛大日堂に残る仏像群の魅力、そして保存会の活動について紹介します。
目次
蓑毛大日堂の「閻魔詣(えんまもうで)」とは

蓑毛大日堂の閻魔詣は、毎年8月16日に行われる行事です。古くからこの日は「地獄のふたが開き、亡者たちが帰ってくる日」とされ、閻魔王へお参りすることで家族の無病息災を願い、延命長寿のご利益があると伝えられてきました。
この日、蓑毛大日堂では、閻魔王を含む十王(じゅうおう)像や地蔵菩薩などの貴重な仏像が公開され、自由に観覧できます。あわせて紙芝居が読まれたり、夜には赤い提灯がともされたりと、境内は幻想的な雰囲気に包まれます。
現在の蓑毛大日堂の閻魔詣は、大日堂の存在をより多くの人に知ってもらい、建物や文化財の保存活動にもつなげたいという思いから、2014年に始まりました。今年で12回目を迎える、比較的新しい行事です。
NPO法人はだの大日堂保存会によると、閻魔王をまつる寺では、1月16日と7月16日または8月16日の年2回、閻魔詣を行うところもあるそうです。ただ、蓑毛大日堂は山あいにあり、冬はかなり冷え込みます。夜の参拝は足元も危なく、転倒の心配もあるため、蓑毛大日堂では1月の開催は行わず、夏の一度だけにしているとのことでした。
閻魔王を含む文化財の特別公開や限定御朱印も見どころ

閻魔詣当日は、午後1時から行事が始まります。この日は、お堂の中に入り、閻魔王を含む文化財の仏像たちを間近で見学できます。
また、地獄や極楽を題材にした紙芝居も行われるそうで、子どもにも親しみやすい内容のため、家族での参拝にも向いています。こうした紙芝居や案内、解説は、あえて閻魔堂から少し離れた場所で行うとのことでした。静かに心を落ち着けて堂内の雰囲気を味わってほしいという思いがあるからです。
さらに、閻魔詣の日だけ授与される限定御朱印があるのも魅力です。大日堂では普段、大日如来、薬師如来、地蔵菩薩のいずれかの御朱印が授与されますが、この日は「閻魔王」と記された特別な御朱印が授与されます。
夜になると、大日堂の境内に赤い提灯がともり、昼間とは違う幻想的な空気に包まれます。昨年の写真も見せていただきましたが、赤い光が浮かぶ閻魔堂は静かで厳かで、少し怖さも感じさせる風景でした。
全国的にも珍しい大きな地蔵菩薩と十王の配置

閻魔詣の当日は、お堂の中に入り、閻魔王を含む仏像たちを間近で見学できます。
相原理事と東島理事にご案内いただき、仏像の配置について詳しく教えていただきました。お堂の正面中央には、大きな地蔵菩薩が鎮座しています。そして、その地蔵菩薩を取り囲むように、閻魔王を含む「十王」像が並んでいます。この構図は全国的にも珍しいそうです。
閻魔堂には、閻魔王を含む十王坐像10体のほかにも、閻魔王の表の姿とされる地蔵菩薩、三途の川で亡者の衣服を脱がす奪衣婆(だつえば)、閻魔王の前に亡者を引き立てる鬼卒(きそつ)、嘘を見破る人頭杖(にんずじょう)、生前の行いを映し出すとされる浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)などが安置されています。これだけ一式がそろっていること自体が貴重なのだそうで、それぞれの像や道具にもしっかり意味があり、深い世界観が感じられます。
十王とは、人が亡くなった後、死後の世界で裁きを行う10人の裁判官のことです。人は死後、7日ごとに裁きを受けるとされ、よく知られている閻魔王はその5番目、35日目の裁きを担当する存在です。
中でも印象的だったのが、浄玻璃鏡の話でした。閻魔王が扱うこの鏡には生前の行いが映し出されるため、嘘や言い逃れはできないといいます。少し緊張感のある話ですが、自分の行いを見つめ直すきっかけになると感じました。
もう一つ興味深かったのは、閻魔王と地蔵菩薩は対照的に見えながら、同一仏とみる考え方があることです。慈悲深い地蔵菩薩が、厳しい地獄の裁判官である閻魔王の姿を借りて死者を救済しているとされる点に、この世界観の奥深さを感じました。怖さの先に救いがあるという信仰のかたちが、蓑毛大日堂には今も残っています。
怖いけどちょっと愛嬌(あいきょう)のある鬼卒(きそつ)

閻魔堂の入り口付近には、「鬼卒(きそつ)」と呼ばれる像があります。鬼卒とは、地獄で働く役人のこと。亡者を閻魔王の前に引き出したり、言い渡された刑罰の執行に関わったりする役割を持っています。
頭には角があり、表情も険しいため、一見するととても怖く見えます。ところが、じっくり見てみると、どこか愛嬌も感じられます。取材の中で、この鬼卒は相原理事が特に推しているお気に入りの像だと教えていただきました。
閻魔詣の日は、ぜひ鬼卒の表情にも注目してみてください。
豊かな自然と建物の老朽化「何とか残したい」という思いで続く保存会の活動

今回のお話の中で強く心に残ったのは、大日堂を守る保存会の皆さんの思いと、抱えている課題の大きさでした。
蓑毛は自然が豊かで、動物も多い地域です。そのため、古い建物を維持していくには厳しい環境でもあります。現在、お堂は雨漏りや動物の侵入によって老朽化が進んでおり、このままでは建物が傷み続けてしまう状況にあります。
保存会の皆さんは、「秦野市にこんな良いものがあるのにもったいない。何とかして残したい」という純粋な思いから、理事の8人を中心に環境整備や広報など役割を分担しながら、日々維持管理に取り組んでいるそうです。一方で、メンバーの高齢化も進んでおり、80代で引退される方もいます。手伝ってくれていた大学生が就職を機に離れてしまうなど、実働メンバーが減少していることも課題だといいます。
建物の修復を進めるためには、まず大日堂の存在を広く知ってもらう必要があります。そのために、毎月第1日曜日の一般公開や、夏の閻魔詣を続けています。
東京など遠方から訪れる人も多く、さまざまな人に大日堂を知ってもらうことや交流が生まれることが、活動の大きな励みになっているそうです。
2026年の閻魔詣開催情報

2026年の閻魔詣は、8月16日(日)に開催予定です。
歴史や神社仏閣に関心のある方はもちろん、地元の文化を子どもに伝えたい家族にとっても良い機会となります。紙芝居で閻魔王の話を聞き、閻魔堂で十王などをゆっくり見て、夜には提灯の明かりがともる境内の雰囲気を味わう。そうした体験ができるのも、閻魔詣ならではの魅力です。
写真撮影は、お堂の外からであれば可能ですが、フラッシュ撮影は控えましょう。文化財を守りながら拝観することも大切です。
8月16日は、秦野に受け継がれてきた祈りと文化にふれられる一日です。今年は蓑毛大日堂を訪ね、その特別な空気を味わってみてください。
■閻魔詣
開催日:2026年8月16日(日)
開催時間:13:00~20:00
場所:蓑毛大日堂境内の閻魔堂(秦野市蓑毛674)
主催:NPO法人はだの大日堂保存会
問い合わせ:0463-81-3528(蓑毛山宝蓮寺内)
■蓑毛大日堂
住所:神奈川県秦野市蓑毛721
一般公開日:毎月第1日曜日 午前9時~午後3時
拝観について:通常は閉まっていますが、団体拝観などは宝蓮寺へ申込みのうえ随時対応
公式ホームページ:https://www.minoge-bunka.org
Instagram:https://www.instagram.com/hadanodainichido/
駐車場:あり(約20台程度)
【得意分野】 きのこ、散策、人物取材
秦野市在住のWebライターです。きのこが大好きで、休日はよくカメラを持って散策に出かけます。
きのこにまつわる食文化や人物の取材が得意です。きのこを通して、表丹沢や秦野ならではの魅力を発信していきます。
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