おすすめ記事

OMOTAN Article

投稿日:

/ 更新日:

【ライター記事】丹沢の恵みを「まちの誇り」に 鶴巻温泉から発信するジビエの新たな可能性

川上商会『欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ』

神奈川県秦野市の地域ブランド「はだのブランド」が2025年にリニューアルし、新たなコンセプト「丹沢の杜、名水のまち」を象徴する6品が認証されました。連載第2弾としてスポットを当てるのは、株式会社川上商会の「欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ」です。「商品を売りたいのではない。ジビエのまち・鶴巻温泉というまちそのものを売りたい」。そう語る株式会社川上商会代表の川上拓郎さんの言葉の裏には、不動産業を本業としながら自ら食肉販売業の営業許可を取得し、地域の未来を切り拓こうとする熱い情熱がありました。11月に開催された「鶴巻温泉ジビエマルシェ」での反響、そして「丹沢ジビエ」という名に込められた広域連携の戦略。一本のソーセージから始まる、未来への挑戦に迫ります。

本業への危機感から始まった「まちおこし」の原点

川上商会の代表川上拓郎さん

川上商会の代表、川上拓郎さんの本業は、地元・鶴巻温泉に根ざした不動産業です。川上さんが「まちおこし」に私財と時間を投じるようになった理由は、現実的なデータにありました。

「不動産業を営んでいると、地価の下落、アパートの家賃低下、そして契約数の減少といったまちの活力を示す『数字』を突きつけられるんです」

このままではまちが魅力を失い、自分の仕事もなくなってしまう――。そんな切実な危機感が活動の原点でした。川上さんはまず、まちへの動線を変えようと2014年頃から観光地・大山と鶴巻温泉を結ぶバスの運行開始に尽力します。しかし、インフラを整えるだけでは不十分であることにも気づきました。

「温泉地には、わざわざ足を運ぶ価値のある『美味しい食』が不可欠です。しかし、今の鶴巻にはそれがない」。そこで着目したのが、かつて鶴巻温泉の旅館で提供されていた「猪鍋(ししなべ)」の文化でした。まちの誇りだったジビエを現代のコンテンツとして再生させることができれば、再び人を呼び戻せるはず。そう確信したのです。 ここからの川上さんの行動力は、まさに「まちのプロ」ならではでした。飲食店が個別にジビエを仕入れるハードルを下げるため、自ら「食肉販売業」の営業許可を取得し、一括仕入れと配送を担う卸売業者としての役割を買って出ました。さらにジビエに合う酒を求め、「酒類販売業」の免許も取得。「不動産業は行政手続きが日常茶飯事なので、複雑な免許申請も苦にならなかった」と笑う川上さん。本業で培った事務遂行能力を武器に、民間一社では困難と思われる流通網を開拓していったのです。

「秦野」を超えて「丹沢」へ 戦略的なブランディング

丹沢ジビエの商品。奥が第一弾のレトルトカレー、手前が「はだのブランド」のソーセージ

川上さんのブランディングは非常に戦略的です。特筆すべきは、あえて「秦野ジビエ」ではなく、周辺地域を包含する「丹沢ジビエ」として商標を取得した点です。

「山はつながっています。秦野という枠に縛られず、伊勢原や厚木、松田など周辺地域を巻き込んだ大きなマーケットを作らなければ、産業として成立しません」

さらに、不動産業で培った徹底的なリスク管理の視点が、ブランドの信頼性を支えています。 「コンプライアンスの問題もあります。現在、秦野市内にはジビエ処理加工施設がありません。私が仕入れているのは、隣接する伊勢原市の大山の麓にある『阿夫利山荘(あふりさんそう)』で適切に処理された高品質な肉です。市外で捕獲・処理された肉を『秦野ジビエ』として売ることは、消費者の誤認を招くリスクがあります。ですが『丹沢』という括りであれば、誠実なブランドとして正当性を保てるのです」

「山に境界線はない」とも語る川上さん。丹沢全体を一つのマーケットと捉え、その玄関口として鶴巻温泉を位置づける。この広域連携の視点こそが、今回のブランド認証やメディア露出を成功させる大きな鍵となりました。

「フレンチ」としての矜持 妥協なき商品開発

はだのブランド認証品 欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ

今回はだのブランドに認証された「欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ」。監修にも携わった川上さんは、実は一流ホテルでの勤務経験もあり、その研ぎ澄まされた感性が注ぎ込まれています。

通常、こうした加工品の多くは既存のレシピ(プロトタイプ)をベースに作られますが、川上さんはそれを拒みました。「中身も配合もすべて自分が指定した100%オリジナルでなければ意味がない」。最大の壁は、そのこだわりを受け入れてくれる製造パートナー探しでした。小ロットかつ複雑なレシピ指定に対応してくれる業者はなかなか見つかりませんでしたが、粘り強く交渉を重ね、ようやく情熱を形にしてくれる職人気質のメーカーと巡り合いました。

追求したのは、肉の野生味を活かしつつ上品な香りを纏わせる「スパイスの調和」です。さらに肉の挽き方にもこだわり、ゴツゴツとした力強い食感を残すことで、噛みしめるたびに丹沢の豊かな恵みが広がる仕立てにしました。 パッケージに踊る「Sanglier(猪)」「Chevreuil(鹿)」というフランス語の表記。それは、かつてのジビエのイメージを払拭し、高付加価値な「フランス料理」としてのステータスを確立したいという、川上さんのプライドの証。自分へのご褒美にもふさわしい、大人のためのジビエ商品です。

「ジビエマルシェ」が証明したコンテンツ力

会場の外まで続くジビエマルシェの大行列

取材を進めていく中で川上さんの戦略が正しかったことを、これ以上ない形で証明する出来事を話していただきました。

それは、2025年11月に開催された「鶴巻温泉ジビエマルシェ」。会場となった「弘法の里湯」は年間18万人の集客を誇りますが、これまでは来場者が施設内で完結し、まちの回遊や経済効果が薄いことが長年の課題でした。川上さんはこの課題を解決するために、「ジビエ」の名を冠したマルシェを企画しました。

「開始前から信じられないほどの大行列が発生し、行列は駅前の横断歩道まで到達しました。温泉街の通りが、まるで渋谷のスクランブル交差点のようでした」

驚くべきは、来場者の多くがSNSなどのニュースを見て「ジビエ」を目的に遠方から訪れた人々だったことです。用意した約300個の在庫はわずか1時間強で完売。「広告宣伝費は一切かけていません。ジビエという言葉の引きの強さと、商品の物語が人を動かしたんです」と川上さんは誇らしげに振り返ります。

この成功は、「ジビエはまちを救う武器になる」という確信を川上さんにもたらしました。イベント後には注文が急増し、在庫が底をつくほどの反響を呼んだといいます。「地元商店会の取り組みが結実した瞬間でした。でも、これはまだ入り口です」。鶴巻温泉が「ジビエの聖地」として産声をあげた、歴史的な一日となりました。

未来へのビジョン 猟師を「産業」へとアップデートする

秦野市街から望む丹沢の山々

川上さんの視線は、さらに先を見据えています。それは、猟師(ハンター)の「産業化」です。「狩猟を海の漁師と同じように、獲物を市場(ジビエ処理加工施設)に持ち込めば現金化できる仕組みを作りたい」と川上さんは未来を見据えます。

プロの猟師が獲り、プロの業者が適切に解体する分業体制を確立することで、若い世代の参入を促し、持続可能な森の管理と地域経済の循環を目指しています。

現在は急増する需要に応えるべく、オンラインショップの開設や新イベントの企画が進行中。「ブランド認証はゴールではなく、ようやく入り口に立てたという認識です」と語る川上さん。秦野のジビエは今、着実に全国へと広げようとしています。

一本のソーセージに込められた「まちの未来」

鶴巻温泉駅前に位置する川上商会

はだのブランドのコンセプト「丹沢の杜、名水のまち」。 川上商会の「欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ」は、里山の恵みをいただき、名水のまち・秦野の新たな魅力として磨き上げる。川上さんが作り上げたのは、単なる美味しいソーセージではなく、まちの未来を変えるための「旗印」でした。

一本のソーセージを口にする時、そこには丹沢の深い森と、それを守る人々、そしてまちの衰退に抗い情熱を燃やす男の物語が息づいています。鶴巻温泉の風を感じながら、この「誇り」をぜひ味わってみてください。

株式会社川上商会
■住 所:秦野市鶴巻南1-1-5
■電話番号:0463-77-1313
■営業時間:10:00~17:00
■定休日:水曜日・木曜日
■丹沢ジビオンラインショップ https://tanzawagibie.base.shop/
Instagram:https://www.instagram.com/tanzawagibier/
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100080489751325

はだのブランド
公式HP https://www.hadano-brand.jp/
はだのブランド推進協議会
【事務局】
秦野市環境産業部はだの魅力づくり推進課
〒257-8501 神奈川県秦野市桜町1-3-2
TEL:0463-82-9036
E-mail:info@hadano-brand.jp

【共同事務局】
秦野商工会議所 地域産業振興課
〒257-8588 神奈川県秦野市平沢2550-1
E-mail:info@hadano-cci.or.jp

OMOTANライター 及川 じゅりこ (おいかわ じゅりこ)
【得意分野】 子どもと楽しむ

3年前に子育て環境を重視して都心から秦野市に移住してきた週1都内勤務のほぼリモートワーママです。
やんちゃな息子2人と新しい事に挑戦したり、楽しいスポットにお出かけすることが大好き!OMOTAN子連れスポットのリアルな体験をお届けします。

Related Articles

関連記事

投稿日:2026.2.26

【ライター記事】丹沢の恵みを「まちの誇り」に 鶴巻温泉から発信するジビエの新たな可能性

神奈川県秦野市の地域ブランド「はだのブランド」が2025年にリニューアルし、新たなコンセプト「丹沢の杜、名水のまち」を象 […]

投稿日:2026.2.12

【ライター記事】~秦野の逸品を全国へ~新「はだのブランド」を巡る旅。第一弾は石庄庵の『あしながきのこ蕎麦』に注目!

モノ、コト、ヒト…、様々な魅力に溢れる秦野。「はだのブランド」とは、秦野の魅力を発信し、まちのブランド力を高めるために平 […]

投稿日:2026.1.22

【ライター記事】中国料理「北京館」代表 三浦義政さん【OMOTAN人 vol.6】

秦野市の鈴張町にある中国料理店・北京館。この店を営む三浦義政(みうらよしまさ)さんは、長年にわたり地域に親しまれてきた本 […]

RANKING

OMOTANライター人気記事ランキング