
令和7年、「丹沢の杜、名水のまち」という新しいコンセプトのもと、再スタートをきった「はだのブランド」。改めて選定された第一回認証品の魅力を、全6回にわたってお届けしてきた連載シリーズも、いよいよ今回が最終回となりました。
ラストを飾るのは、緑茶工房わさびや茶園が手がける和紅茶「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」です。幾度も農林水産大臣賞を受賞してきた名園が、神奈川県初の国産紅茶として丹精込めて作り上げた、まさに「秦野の宝」ともいえる逸品。
トリにふさわしいこだわりと情熱が詰まった一杯の物語を、さっそくご紹介していきます!
目次
始まりは、わさび栽培。そして70年続くお茶づくりへ

秦野市菩提地区、丹沢山地の懐に抱かれた標高300mの場所に緑茶工房わさびや茶園(以下、わさびや茶園)はあります。今回は、代表である山口勇(やまぐちいさむ)さんにお話を伺ってきました。
わさびや茶園の由来は、今から150年ほど前の明治初期にまで遡ります。園の裏山には100年以上前から大切に守られてきた「わさび沢」があり、現在も清らかな湧水が絶えることなく流れています。かつてこの場所でわさび栽培から始まった歴史が、そのまま「わさびや」という屋号に刻まれているのです。
お茶づくりが始まったのは、昭和30年のこと。「ここは傾斜地だから、普通の作物を作るのは大変だろう」という思いから、お茶の種を蒔いたのがきっかけでした。今では苗木を植えて育てるのが一般的ですが、当時はまだ苗が普及していなかった時代。わさびや茶園は、苗を植えるのではなく、種からお茶を育てる「実生園(みしょうえん)」としてその歩みを始めました。また、その種は、もともと秦野のあちこちにあったお茶の木や、圃場(ほじょう)から大切に集められたもの。そうして生まれた「在来実生園(ざいらいみしょうえん)」は、今では全国的にも珍しく、貴重な存在となっています。
現在は品種茶も手がけているわさびや茶園ですが、今回「はだのブランド」に選ばれた「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」は、この希少な在来実生園の茶葉をベースに仕立てられました。 この地でお茶づくりを続けて、今年で70年目を迎える「わさびや茶園」。お茶づくりに対するその真摯な姿勢は、OMOTAN記事の「丹沢山系の麓で代々受け継がれる「お茶づくり」と未来への挑戦 秦野を代表する茶農家『緑茶工房わさびや茶園』と『高梨茶園』」でも詳しく紹介しています。
わさびや茶園の新たな一歩。県内初の「和紅茶づくり」への挑戦

和紅茶とは、日本で栽培・加工された「国産紅茶」のこと。九州などでは紅茶専用の品種も育てられていますが、わさびや茶園では、緑茶用品種から紅茶を生み出しています。
山口さんが和紅茶づくりに踏み出したきっかけは、意外にも一つの新聞記事との出会いでした。
「2000年当時、農業専門紙の『日本農業新聞』に、滋賀県の試験場で行われていた『緑茶の機械を活用した紅茶づくり』の様子が紹介されていて、これは面白そう、と思ったんです」。
そんな好奇心から始まった挑戦でしたが、道のりは想像以上に険しいものでした。
「そもそも緑茶は『発酵させない』お茶であり、紅茶は『発酵させて』作るお茶。工程が正反対なんですね。綺麗な生葉を発酵のために萎(しお)れさせて、茶色く変色させていく。最初の頃は緑茶に対して申し訳ないというか、せっかくの良い葉を痛めつけているような、そんな複雑な気持ちでした」と、山口さんは語ります。
当時は「和紅茶」という言葉すら一般的ではなかった時代。県の担当者にも協力してもらいながら挑むも、資料もなく、知識も乏しい中でのスタートでした。試行錯誤を繰り返し、お茶をじっくり寝かせて香りを引き出す「発酵」の工程では、2~3年ほど悩んだ末にようやく納得のいく香りと味わいが安定するようになったと言います。
こうして、神奈川県では初の、緑茶用品種から作られた国産紅茶「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」が誕生したのです。
茶葉の状態に寄り添い、自然の力を借りた丁寧なお茶づくり

今でこそ専用の機械が普及し、国内でも広く作られるようになった和紅茶ですが、わさびや茶園では一部に機械を使いつつも、なるべく当時のまま、手作業に近い形で作っています。
そのこだわりの一つが、「萎凋(いちょう)」という工程です。茶葉を萎(しお)らせて香りを引き出すこの作業は、和紅茶の個性を左右する大切な役割を担っています。
一般的には、強い風を当てることで1日ほどで終わらせることも多い「萎凋」ですが、わさびや茶園では丸2日間、じっくりと時間をかけて行います。
「あまり強い風は入れず、自然に近い形で萎らせていくんです。そうすると、夏の草刈りのあとに漂ってくるような、独特の甘い香りが立ち始めてくる。そのベストな瞬間を見計らって、次の工程へと進みます」
天候や茶葉の状態を見極め、五感を研ぎ澄ませて「ここだ」という頃合いを掴むのですね!
そして二つ目が、開発時に山口さんが最も苦労したという「静置(せいち)発酵」。揉み込みを経てさらに香りを深める工程です。
「最初は大きな『たも』に茶葉をどっさり厚く積み上げてみましたが、どうしても香味が安定しなかった。そこで、薄く平らに並べた『たも』を5段ほど重ね、密閉して発酵させる方法にたどり着きました」
現在も、湿度をほぼ100%に保った状態で2時間ほど休ませ、じっくりと発酵を促しています。
「自然に任せて萎らせる萎凋と、シートをかけて発酵を深める静置発酵と。茶葉の状態に寄り添いながら進めることで、茶葉が持つポテンシャルを最大限に引き出しています」。
こうして手間を惜しまず丹念に仕上げられたからこそ、「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」は、角のない柔らかな口あたりと奥行きのある優しい味わいを湛えているのですね。
茶畑を見守ってきた古の神様。「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」の名に込めた、代々守り継がれた土地への想い

それにしても、「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」という名前、一度聞いたら忘れられないインパクトがありますよね。
一体その由来はどこから?と伺ってみると、「実は、茶畑そのものが深く関係しているんですよ」と、山口さん。うーん、これはぜひ、実際にお茶が育つ畑へ伺ってみたい!
そうして案内して頂いた山間の茶畑には、この名前に込められた神秘的な物語が待っていました。茶畑の中に静かに鎮座する「山の神様」こそ、「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」のルーツだったのです。
この地には、茶畑ができるずっと前から「山の神様」が祀られていました。正確な年代こそ定かではありませんが、隣家で代々山仕事に従事してきた家系の方が、三代、四代……あるいはもっと前から、200〜300年もの長い間大切に守ってきた場所だといいます。
山口さんいわく、「わさび栽培が始まるより前から、ここには神様がいらっしゃったのかもしれませんね」。
実際、祠の傍らに立つ榊(さかき)の木は、驚くほど太くごつごつとしており、積み重ねてきた歳月の重みを物語っています。
地元では親しみを込めて、この茶畑自体のことを「山の神」と呼んでいます。そんな特別な場所で摘まれた茶葉だからこそ、敬意を込めて「山の神」を直訳し、「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」と名付けられました。 歴史ある場所で生まれたお茶に、あえてモダンな横文字の名前を授ける。そこには、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける、わさびや茶園さんらしい想いが込められていました。
表丹沢の恵みと山の神様に守られて作られる、珠玉の一杯

山の神様が見守る茶畑の向こうには、表丹沢の稜線や秦野の市街地が広がり、ここが険しくも豊かな「山の間」であることをしみじみと実感させてくれます。惜しみない手間暇はもちろんのこと、この厳しいながらも恵まれた「環境」そのものもまた、おいしいお茶を育むためには欠かせない大切な条件となっていました。
まずは、山間部だからこそ生じる、昼夜の大きな寒暖差です。「お茶に限らず、作物は寒暖差があるほど味が良くなると言われています」と山口さんは話します。この山間部ならではの温度差が、茶葉に深い旨みをもたらしているのです。
「水はけ」と「水もち」の両立も、美味しさの大切な秘訣です。傾斜地のため、水はけが良いのはもちろんですが、そこにわさびや茶園ならではの「土づくりの努力」が加わります。参考にしているのは、世界農業遺産にも登録されている「茶草場(ちゃぐさば)農法」。わさびや茶園では山草やカヤを細かく刻んで土に混ぜ込んでいるそうです。ストロー状のカヤが土の中に空気の層と水の「プール」を作ることで水もちが格段に向上し、理想的な土壌環境が整います。
そして、適度な「日影」も要素の一つ。玉露や抹茶などがネットをかけて丁寧に育てられるように、茶葉には直射日光を遮る環境が求められることもあります。
その点、わさびや茶園が位置する山間部は、まさに理想的な環境でした。表丹沢の複雑な山肌や地形がもたらす自然の造形が、お茶にとって心地よい「天然の遮光」の役割を果たしてくれているのです。平地よりも日照時間が短く、穏やかな光が差し込む山間部ならではの地形。この自然が生み出した「適度な日差し」こそが、緑茶の深い味わいを引き出すための絶好の条件となっていました。
一方で、紅茶づくりには太陽のエネルギーをいっぱいに浴びた日差しが欠かせないとのこと。そのため、紅茶づくりには夏の暑い時期に収穫する「二番茶」を使用しています。ここでも、緑茶と紅茶は正反対の性質を持っているのですね。 山の神様に見守られ、表丹沢の豊かな自然の力を借りながら、愛情深い手間暇によって育まれた「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」。紛れもなく、「はだのブランド」に相応しい逸品でした!
渋みがなく、柔らかな味わいが特徴の「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」

紅茶に比べて、渋みや苦味が少ない和紅茶。「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」もまた、加糖せずとも楽しめるくらい、ほんのりと甘みがあり優しい味わいが楽しめます。
紅茶をおいしく淹れるコツは、まずはポットの中で茶葉をしっかりジャンピング(上下運動)させること。次に、蒸らしも1分ほどしっかり行います。また、紅茶に限らずウーロン茶などの発酵茶は、熱湯で淹れるのがおすすめだそうですよ。

わさびや茶園のホームページでは、濃い目のストレートティーがおすすめと記載されている「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」。お茶自体が柔らかく角のない味わいなので、パイナップルやレモン、りんごを入れたフルーツティーなど、意外と酸味のあるものとあわせても楽しめます。
そして、山口さんからは「実は梅酒や梅ジュースとも合うんです」とアドバイスを頂きました。梅の香りとの相乗効果もあり、とてもおいしく飲めるのだとか。これはぜひ、試してみたいですね!
手土産にもおすすめ!「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」とあわせて楽しみたい、丹沢名産のお菓子とは

せっかくならばお茶の時間をより楽しみたい!ということで、今回「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」といっしょに、菓子工房アンデス橋本さんの「丹沢ピーナッツサブレ」も頂いてみました。
秦野産ピーナッツを贅沢に使用している「丹沢ピーナッツサブレ」。袋から出した瞬間からピーナッツの香ばしい香りが広がります。さくさくと軽い食感のサブレは、砕いたピーナッツが程よいアクセントに。渋みのない和紅茶がサブレの甘さをさらに引き立ててくれるので、いっしょに味わうと何枚でもいけちゃいそうでした!「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」とあわせて、表丹沢の手土産としてもぴったり。アンデス橋本の店舗のほか、秦野駅の名産センターでも購入可能ですよ。
まだまだある秦野表丹沢の魅力。これからも続く「はだのブランド」の物語

これまで全6回にわたり、「はだのブランド」の第一回認証品をご紹介してきました。どの商品も「丹沢の杜、名水のまち」のコンセプトに相応しい逸品でしたね!皆様にもお気に入りが見つかっていたらとても嬉しいです(*^^*)
そして、秦野表丹沢にはまだまだ素敵な商品、サービスがたくさんあります。今後第2回、3回と認証品が増えていくのが、私たちOMOTANライターとしてもとても楽しみです。 リニューアル前の商品は、はだのブランドホームページ内の「みっけもん秦野認証品」のページでご覧いただけます。こちらもぜひ、あわせてチェックしてみてくださいね。
■施設名:緑茶工房わさびや茶園
■住 所:秦野市菩提908
■電話番号:0463-75-1571
■営業時間:9時から18時まで
■交通アクセス
<公共交通>
・小田急小田原線 秦野駅より『バス』【秦51】「渋沢駅北口行き」で約15分、「菩提原」下車、徒歩約30分
・小田急線 渋沢駅より『バス』【秦51】「秦野駅行き」で約15分、「菩提原」下車、徒歩約30分
<車>
・新東名高速道路 秦野丹沢スマートICより約5分
■施設情報
公式ホームページ:http://www.wasabiya.jp/
【得意分野】 インタビュー、グルメ
フリーライターの那保です。国内旅行業務取扱管理者、添乗員資格有り。神社好き、シンガプーラ飼いの猫好き、美味しいものも大好き。
神奈川へは移住組、その多彩な魅力にまんまとハマってます。
表丹沢を駆け回れるようになるべく、目下体力づくりに奮闘中。インスタでは表丹沢ほか、魅力的な写真を投稿しているので、ぜひ覗いてみてください!
Instagram:@nyao_muu




