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【ライター記事】中国料理「北京館」代表 三浦義政さん【OMOTAN人 vol.6】

料理人であり、猟師である。山から始まる食の循環「秦野ジビエ」の普及へ

秦野市の鈴張町にある中国料理店・北京館。この店を営む三浦義政(みうらよしまさ)さんは、長年にわたり地域に親しまれてきた本格中華の料理人です。そんな三浦さんには、もう一つの顔があります。
それが、西秦野猟友会の事務局を務める猟師(ハンター)としての顔です。お店の定休日である火曜日、三浦さんは猟銃を担いで、表丹沢の山へと入ります。今回は、その一日に同行し、山に向かう三浦さんを取材させていただきました。
 料理人として店に立ち、猟師として山に入る。その往復のなかで見えてきたのは、「捕る」ことだけでは終わらせない、命との誠実な向き合い方でした。
「もらった命を、無駄にしたくない」
その思いから生まれた「秦野ジビエ」は、山と街、狩猟と食文化を結ぶ新たな地域資源として注目を集めています。

北京館で生まれた秦野ジビエ「鹿肉麻婆豆腐」

北京館

真っ赤な外観が印象的な中国料理店「北京館」。1971年、三浦義政さんの父が創業して以来、50年以上にわたり地元の人々に愛されてきました。家族連れや常連客で賑わう、秦野を代表する本格中華料理のお店です。

広々とした北京館の店内。個室もあり落ち着く空間
店内には迫力のある龍の壁画が描かれています

ラーメンや餃子といった定番メニューに加え、季節の野菜や地元食材を取り入れた料理も多く、地産地消をコンセプトにしたメニューが並びます。

なかでも注目を集めているのが、秦野ジビエを使った鹿肉麻婆豆腐!高たんぱく・低脂肪で鉄分も豊富な鹿肉の特性を生かした一品で、メディアにも数多く取り上げられ、いまや北京館の看板メニューとなっています。

秦野名水手作り豆腐と鹿肉を使った鹿肉麻婆豆腐 (三浦さんご提供)

この鹿肉麻婆豆腐の誕生には、三浦さん自身が猟友会に所属しハンターとして活動してきた背景があります。

命をいただくことへの感謝と、地元の食材を無駄なく生かしたいという思いが、秦野ジビエ料理や地産地消メニューの開発へとつながっていきました。

店内に飾られたシカの角と銃弾

猟師としての顔——表丹沢の山へ

取材当日の三浦さん

三浦さんが猟友会に入ったのは、今から15年以上前のことです。

「猟友会に入っていた父が亡くなり、猟銃を持っていたため、それをどうするかという話になったんです。手放す選択もありました。でも、父が大切にしていたものを、ただ終わらせたくなかった。だったら、自分がやってみようかなって」

銃を構える三浦さん

初めて鹿を仕留めた日のことは、今でも鮮明に覚えていると言います。

「正直、ものすごく緊張しました。アドレナリンも出る。でも、撃ったら終わりじゃない。苦しんでいる時間をできるだけ短くする。それも狩猟の一部だと先輩から教わりました」

有害鳥獣対策の一日に密着

集合場所の様子

取材当日、集合場所には西秦野猟友会と秦野猟友会のメンバーを中心に、およそ30人の猟師が集まっていました。この日の目的は、農作物被害を防ぐための有害鳥獣対策です。

依頼は農協を通じて行政から出され、必要な許可を得たうえで山に入ります。

山に入る前の打ち合わせ

山に入る前には必ず打ち合わせが行われ、役割分担を確認します。猟犬で獲物を追い立てる人、尾根や獣道で待機する射手。無線で連絡を取り合いながら行動します。

三浦さんは事務局として、当日のルート、登山道や民家の位置、安全面の確認など、全体の連絡や段取りを取りまとめます。

山での現場――簡単ではない「捕る」という行為

登山道から山の中へ

この日、三浦さんは最も体力を要する山中のグループに入り、指示を出しながら進んでいきました。整備されていない急斜面を、長靴で登る。重量のある猟銃や装備を担ぎ、足場の悪い斜面を進む作業は、想像以上に過酷です。

整備されていない山道を長靴で登る

山に入ってすぐ、シカの群れに遭遇しましたが、そこは発砲できる区域ではなく、目の前を駆け抜けていきました。

まだ新しい獣の足跡を追う

狩猟の現場で基本となる考え方が「一犬・二足・三鉄砲」。猟犬、人、鉄砲、それぞれの役割が噛み合って初めて成立するチームプレーの「巻き猟」です。

無線機とGPSを頼りに、猟犬の動きを注視しながら待機。一瞬の判断ミスが事故につながるため、山には常に緊張感が漂っていました。

狩猟の現場で欠かせないGPS&無線

「パーン!パーン!」と何度か山に響く銃声の音。この日、猟友会によってシカ3頭が仕留められました。

駆除されたシカを山から降ろすのも大仕事

有害鳥獣対策は、地域の暮らしと直結している

山の麓の民家・畑に仕掛けられた鳥獣対策の檻

近年、秦野市周辺ではシカやイノシシの個体数が増え、農作物被害が深刻化しています。特にシカは繁殖力が高く、個体数は増える一方です。

山の麓の民家や畑には防護柵や檻が設置され、駆除の依頼が猟友会に寄せられています。

活動には一定の手当が出ますが、装備や弾薬、車両の維持費などはほぼ自己負担です。

狩猟に使う猟銃はメンテナンスが必要

「楽ではないですよ。でも、やる人がいなくなったら困るのは地域ですから」

三浦さんは、そう語ります。

もらった命の扱い

仕留めたシカやイノシシは、かつては猟友会の中で分け合ったり、猟犬の餌にしたりするのが一般的でした。最初は「もらった命だから、食べられる分は食べよう」という思いでしたが、個体数が増えるにつれ、次第に限界が訪れます。

猟犬は大事なパートナー

「毎週のように『はい、今日も一頭』ってなると、正直、もう肉はいらないって人も出てくる。冷凍庫にも入らない。犬の餌にするにも限界がある」

それでも捕獲は続きます。一日山に入り、解体までしても、当時の手当はわずか。

「何のためにやってるんだろう」

そう思う瞬間も、何度もあったと言います。そんな中で、三浦さんの中に強く残ったのが「もらった命なんだから」という言葉でした。

現在約30店舗!——「秦野ジビエ」の普及

ようやく鹿肉麻婆豆腐の提供が可能に!(三浦さんご提供)

秦野ジビエの取り組みで大きな転換点となったのが、食肉加工処理施設との連携です。

現在は市外の専門施設と連携し、衛生管理のもとで解体・加工される仕組みが整いました。

これにより、飲食店でも安全にジビエを扱える環境が整い、北京館でも鹿肉麻婆豆腐の提供が可能になりました。

さらに2023年10月には、レトルト商品「ジビエ麻婆豆腐の素」として商品化。年間500〜600食を売り上げる人気商品となり、家庭でも秦野ジビエが味わえるようになりました。

丹沢土産にも最適!ジビエ麻婆豆腐の素が商品化

現在、秦野市内では約30店舗がジビエ料理を提供しています。

山と向き合い、命をいただく。その営みを日常の食へと昇華させる「食の循環」が、少しずつ地域に根づき、確かな広がりを見せています。

都心からも1時間少しでアクセスできる、自然豊かな表丹沢。その清らかな水と山の恵みが育んだ秦野ジビエは、ここでしか味わえない特別な一品です。

ぜひ、秦野のジビエ料理めぐりを楽しみに訪れてみてください。

■施設名:中国料理 北京館
■住 所:〒257-0055 神奈川県秦野市鈴張町2-35
■電話番号: 0463-82-4801
■営業時間:11:00〜21:00(ラストオーダー 20:00)
■定休日: 毎週火曜日(火曜が祝日の場合は翌水曜)、1月1日・2日など
■公式ホームページ:https://www.pekinkan.com/
Instagram:https://www.instagram.com/pekinkan_hadano/
@pekinkan_hadano
X:https://x.com/pekinkan
facebook: https://www.facebook.com/pekinkan/?locale=ja_JP

OMOTANライター 河村 知香 (かわむら ちか)
【得意分野】 登山、キャンプ、ハーブ、旅企画

山旅専門の会社で企画手配や添乗の仕事をしていました。秦野市に移住して約3年、丹沢の主要な山はすべて登り、庭でハーブを育てたり、夫婦でキャンプをしたりと、丹沢の奥深い自然とゆとりのある環境を満喫しています。山の経験や移住者目線を生かして、表丹沢の魅力をお届けします。
Instagram:@kawamura.chika

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