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県立秦野戸川公園のほど近くに、秦野市の農家レストラン第1号に認定されたレストランがあるってご存じでしょうか。なんでも、県内で初めてどぶろく造りに取り組んだ”手造りのどぶろく”がいただけるんだとか。だけでなく、おいしいジビエ料理も一緒に楽しめるんだとか ?!その名も、「秦野どぶろく家」。
今回は、「秦野どぶろく家」を運営しているNPO法人四十八瀬川自然村の代表理事である小野均さんと、どぶろく仕込み責任者の木下豪規さんに、どぶろく造りの魅力からジビエ料理のこだわりまで、たっぷりお話しを伺ってきました!
日本一の水とともに、日本一のどぶろくになるための、酒米作り
2024年9月下旬に行われた取材。この日は、どぶろくを造るために必要なお米を育てている田んぼから案内してもらいました!
どぶろくを造る上で大切な原料である、お米と水。秦野どぶろく家で造るどぶろくは、お米は酒米の王様と呼ばれる、酒造り専用の「山田錦」を収穫しています。
そしてお水は、環境省が行った「名水百選選抜総選挙おいしさが素晴らしい名水部門」で何と全国1位に輝く、市民自慢の名水を使い仕込んでいます。
「秦野の水は日本一なんだから、日本一のお米を使って、あとは我々の腕次第で、日本一のどぶろくが作れるんじゃないかなぁって」。小野さんは笑顔でそう話されていました。
酒米の収穫は通常9月下旬くらいに行いますが、2024年は少し時期が遅れているとのこと。コロナ禍の前にはNPO法人四十八瀬川自然村のイベントとして稲刈り体験なども行っていたそうです。
それは倉庫というより、まるで秘密基地
田んぼからほど近くに、稲を乾燥させたり足踏み脱穀機を置いていたりと倉庫のような建物があるとのことで、そちらも案内していただきました。
中に一歩入ると、そこにはまるで秘密基地のような空間が!内装のほとんどが、NPO法人四十八瀬川自然村のメンバーの手作りです。
倉庫内には階段や梯子がかかっていて、ロフトに上がれたり端から端へ移動できたり。稲刈りやブルーベリー狩りの体験で来たお子さんたちは、よく縦横無尽に遊びまわっているとか。これは大人も思わずはしゃいでしまう‥!
こちらの木の箱は「キエーロ」といいます。中に黒土を入れ、生ごみを埋めるとバクテリアの力でもって肥料に還元してくれるのだそうです。
入口前にはなんとピザ窯もありました。コロナ禍の前にNPO法人四十八瀬川自然村で行ったイベントのときに、参加者の方と一緒にピザづくりをしたこともあったそうですよ。
梯子をあがったところには、毎年8月に秦野市で平和の日のイベントとして行われている、ピースキャンドルナイトのために作った竹の灯篭も飾られていました。
他にも、体験に来た人たちが記念に残したメッセージが梁に刻まれており、ここで紡がれた交流の跡があちこちに見えてとても素敵な場所でした!
市内初の、〝農家レストラン〟秦野どぶろく家
さぁ、酒米を育てている田んぼ、秘密基地のような倉庫を経て、いよいよ「秦野どぶろく家」へ!
店は大倉尾根の登山道のふもとに構えており、「このお店に来るのを楽しみに山登りにきました」という登山者もいるんだとか。
営業は土曜・日曜の13:00~17:00の間のみ、さらに天気の良い日だけだそうですのでご注意を…!
昭和初期の建物を改装しながら作った「秦野どぶろく家」の内装は、倉庫と同じくテーブルから床、柱に至るまで、NPO法人四十八瀬川自然村のメンバーが自分たちで伐採した木で手作りしました。
まるで屋根の瓦のように組まれた竹は、先程のピザ窯のなかで燻して作ったそうですよ。
それは、どぶろく造りありきで始まった-農家レストランを始めるに至った経緯
小野さんが代表理事を務めるNPO法人四十八瀬川自然村は2001年に結成。環境の保全と自然を生かした地域経済の活性化に寄与することを目的とし、荒廃農地の再生や山林の整備などの活動を行っています。
メンバーには団塊の世代が多いこともあり、農地再生に取り組むなかで新しい魅力づくりの一環としてお酒を作ってみようと、早い段階から酒米を育ててきました。
地元の(株)金井酒造店さんの協力で、NPO法人四十八瀬川自然村で収穫した酒米で非売品の「濁り酒」を造り、2003年から「秦野どぶろく祭り」を10数年間開催してきたものの、やはりいつかは自分たちの手でどぶろくを造ろうと、「どぶろく特区」の申請を秦野市を通じて願い続けてきたそうです。
そして、2021年11月30日、ようやく秦野市が神奈川県初の「秦野名水どぶろく特区」の認定を受けました。
また、どぶろく造りの許可には農家レストランか農家民宿の運営が必要でした。そこで2022年4月末にオープンしたのが、この農家レストラン「秦野どぶろく家」だったのです。
こうして「秦野どぶろく家」は、長い道のりを経て秦野市で初の農家レストラン第一号店に認定され、NPO法人四十八瀬川自然村として2023年、どぶろく造りの許可を取得、念願のどぶろく造りができることになりました。
小野さんは「実に20年以上かかって、いまようやく自分たちで育てたお米で、本物の手造りのどぶろくが提供できるようになりました」と白い歯をのぞかせます。
【ポイント】
どぶろくの製造は、酒類製造免許と酒税法の規制があり、従来は最低製造数量基準や場所の要件などを満たさなければ製造することはできませんでした。しかし、「どぶろく特区」は、その規制を一部緩和することで、農村地域の新たな魅力の創出が期待されています。
やっと作れた念願の「どぶろく」
さっそく手造りのどぶろくをいただいてみます!今回は、熟成品のどぶろくと、仕込んでまだ10日目のどぶろくを、特別に許可をもらい飲み比べてみます。
私の人生初のどぶろく、まずは、熟成品のどぶろくから。ゆっくり口に含むと、どぶろくの特徴でもあるもろみの奥から、しゅわしゅわっとすごい勢いで炭酸が起き上がってきました。そしてこのキレ!喉元でキリリと焼き付くくらい!
【ポイント】
ちなみに日本酒とどぶろくの違いは、大きく分けると濾しているかどうかがポイント!
秦野どぶろく家のどぶろくは火入れをしていないため、発酵が進み、日が経つにつれ少しずつ味が変わっていくんだとか。
その違いを味わうべく、次は、仕込み始めて10日目のどぶろくを頂いてみました。こちらはまろやかな口当たりで、まるで甘酒のような優しいお味!
甘さの理由は、糖にあります。酒のアルコールは糖が分解されて生まれます。この甘さが時間が経つほどに減っていき、炭酸が効いた味に変わっていくとのこと。2種類のどぶろくを飲み比べたことで、その変化をしっかり味わうことができました!
「どぶろくを造り始めたのが2023年11月なので、いまはまだ、よりおいしく飲みやすくするために、いろいろ試している最中です」と木下さん。
仕込み最中のどぶろくは、表面にぷつぷつと発酵を繰り返す泡が浮かび、小さな子どもが一生懸命に話しているようで、なんとも愛おしく思えます。
木下さんは、「毎日混ぜていると、育った育ったという気持ちになりますね。日々変わる味を追いかけることで、思った通りの味にならなかったり、安定して同じ味が作れなかったりと難しさはあるけれど、そこがどぶろく造りの魅力です」と奥深さを教えてくれました。
ここからさらにおいしいどぶろくに進化していくのかと思うと、とても楽しみです!
お酒の名前は、〝OMOTANのどぶろく〟
こちらは実際に瓶で売られているどぶろくです。
あれ、ラベルに見慣れたロゴ…?
そういえば、このどぶろくの名前って??
「通常、新しくお酒を造るとみんな商標登録を取って名前を付けます。最初は名前を広く募集しようかとも言っていたんだけれど…。それよりも、表丹沢を推していこうと、秦野市に申請して、OMOTANのロゴを使用させてもらいました。」と、小野さん。
ということは、このどぶろくの名前は〝OMOTANのどぶろく〟なんですね!
OMOTANとは表丹沢の略称であるとともに、「面白い」「楽しい」の語感を組み合わせたキャッチフレーズです。「M」と「A」を表丹沢の山々に見立て、ブルーは名水、グリーンは豊かなみどり、ピンクは桜などの花を表現しています。
ちなみに、お店で提供している量はワイングラス2杯だけと決めているとのこと。たくさん楽しみたい方はぜひお土産で購入してみては。その際は、ラベルにもぜひ注目してみてくださいね。
登山者にも大人気!完熟梅で作ったジュース
「秦野どぶろく家」のほかのメニューも紹介していきます!
こちらは、登山者に大好評の梅ジュース。口に含んだ瞬間、思わず「甘い!」と声が漏れました。
それもそのはず、梅シロップなどではなく、完熟した梅を使っています。どおりでこの鮮やかなオレンジ色、底に沈んでいる果肉の柔らかさ、そして口いっぱいに広がる瑞々しい甘さ…。
酸味もしっかりあるので、なるほどこれは、登山のあとに飲んだら疲れた身体にさぞ染みることでしょう。
通常の梅ジュースとは違う完熟梅でしか味わえないこのおいしさ、ぜひ体感してみていただきたいです!
ちなみに…マドラーは、葦(ヨシ)でできています!田んぼの近くに葦がたくさん生えている場所があり、マドラー代わりにされているそう。
ストローじゃなくて葦なのがウリ!ということで、当日小野さんが目の前で手作りしてくださいました!
初めての体験!鹿肉を使った「ジビエドッグ」
梅ジュースに喜んでいると、「ジビエドッグ」が運ばれてきました。こちらのジビエは鹿肉を使用。私にとってジビエも初体験。熱々のうちにいただきます!さてお味の方は…?
甘い衣のなかに、ぎゅっと詰まったお肉。秦野で獲れた鹿肉をミンチにし、近くで育てている原木シイタケ、そして地元のタマネギも入っているそう。
肝心の鹿肉は、クセがなく食べやすかったです!もっと野性味溢れる味を想像していましたが、脂っぽさや臭みなどもまったくありませんでした。これから山道で鹿を見かけたら、「おいしかったなぁ」と思ってしまいそう。
地産地消!使われているのはほとんど地元の食材「ジビエそば」
そして、鹿肉が使われた料理としてもう一品、「ジビエそば」。先程のジビエドッグの鹿肉はミンチ状でしたが、こちらはチャーシュー仕立てです。
鹿肉の、ぎゅっと身の詰まった独特の歯応えをより堪能できました。ジビエ肉はヘルシーな味と聞いていましたが、確かに赤身の淡泊ですっきりとクセがないおいしさ。
きちんと専用の施設で処理された鹿肉を使っているとのことで、より安全でおいしいのかもしれません。
他にも、サツマイモやナス、ネギ、自生のあしながキノコが入っていました。あしながキノコとはナラタケのことだそう。ちゅるっとした食感で、噛むとコリコリしていておいしかったです!
その時に採れる旬のものを使っているので、季節によって具材は変わります。これからにかけては、タケノコに似たマコモダケが入ることも。
蕎麦ももちろん地元秦野産の乾麺。サツマイモ、ネギ、ナスは近くの畑で採れたもの。まさに、地産地消なお蕎麦なのです。
【ポイント】
農家レストランでは、地元の食材を半分以上使わなければならないという決まりがあります。秦野どぶろく家の「ジビエそば」は、実に調味料以外のほぼすべて秦野産の食材で成り立っています。
ちなみにジビエドッグはなんとお値段一本100円、ジビエそばは一杯500円。こんなにおいしいのにさらにお安いなんて。登山者にもよく驚かれるという話も頷けます。
「高い値段でだして素通りされちゃったら、せっかくお店開けてるのにつまらないでしょ?来てくれたお客さんに喜んでもらえれば、それでよしとしている」と小野さん。
最近は登山者のリピーターが増えたり、評判を聞きつけてわざわざ遠方から来る方もいるそうですよ!
秦野名水どぶろく祭り
「秦野どぶろく家」では11月に「秦野名水どぶろく祭り」が行われます!
もともとは「秦野どぶろく祭り」という名前で実施されていましたが、自分たちで仕込んだ本物のどぶろくが出来たということで、「名水」を入れて「秦野名水どぶろく祭り」という名前に変わりました!
昨年の2023年は焼きそば、焼き鳥など屋台が並び、どぶろくがふるまわれました。どなたでも参加可能ですので、ぜひ遊びにいらしてみてくださいね。
■日時:2024年11月24日(日)11:00~14:00(なくなり次第終了)
■場所:沼代御嶽神社(〒259-1331 神奈川県秦野市堀西653)
※駐車場はありません
■対象:どなたでも参加可能
■問合せ先:秦野どぶろく家 070-6576-2134
取材のあとに
取材後に小野さんが思いを語ってくれました。「最初はどぶろくだけ作らせてもらえたらそれでよかったという気持ちも少しあった。でもお店ができたことによって、ブルーベリーやシイタケなど自分たちの作ったものを販売できて、おかげ様で色んな体験をした方たちが訪れてくれる。どぶろくを通して、ここがあったからこその新鮮な交流が生まれています」
団塊の世代が立ち上げたNPO法人四十八瀬川自然村。いまは高齢者のメンバーも多くなってきています。
「お客さんが増えるのはもちろん、登山するくらい元気な方が、自分たちの活動にも興味を持ってくれて、一緒にチャレンジするメンバーになってくれたら何より。このどぶろくがきっかけで新たなメンバーが増えて、秦野の里地保全やひいては活性化につながってくれたら」
ちなみに、NPO法人四十八瀬川自然村は年会費2000円。一緒にどぶろく造りしてみたい、里地保全で炭焼きなどに興味を持った、そんな方がいらっしゃったらぜひ問い合わせてみてくださいね。
■施設名:農家レストラン 秦野どぶろく家
■住 所:神奈川県秦野市堀山下1460
■電話番号:070-6576-2134
■営業時間:13:00~17:00(土、日のみ)
■定休日:平日、天気の悪い日
■施設情報:公式HP https://www.48se-mura.com/
【得意分野】 インタビュー、グルメ
フリーライターの那保です。国内旅行業務取扱管理者、添乗員資格有り。神社好き、シンガプーラ飼いの猫好き、美味しいものも大好き。
神奈川へは移住組、その多彩な魅力にまんまとハマってます。
表丹沢を駆け回れるようになるべく、目下体力づくりに奮闘中。インスタでは表丹沢ほか、魅力的な写真を投稿しているので、ぜひ覗いてみてください!
Instagram:@nyao_muu