
今回お話しを伺ったのは、秦野に移住して20年になるOMOTANガイドの伊井 美穂(いい みほ)さん。表丹沢の山間にある地域、蓑毛(みのげ)を中心に森林セラピーガイド(昨年森林セラピストの資格も取得)や里山ガイドとして活動しています。また、地域外からは初めて蓑毛地区活性化対策委員会に入会を認められ、地域の人たちに溶け込みながら、蓑毛の魅力を広めています。森林セラピーガイド、そして蓑毛地区活性化対策委員と、精力的に活動の幅を広げている伊井さんのOMOTANライフをインタビューしてきました。
目次
転勤族から秦野移住へ、森林セラピーとの出会い

もともとは千葉県出身。都内や大阪に住んでいた時期もあり、各地を転々とする生活を送るなかで、秦野に住むきっかけとなったのも転勤でした。近くに山や海もある自然豊かなところや、同世代の母親が多く子育てのしやすい環境が気に入り、家を購入して2007年に定住を決めました。
秦野での生活は、夫がマラソンやトレイルランニングが趣味なので環境が合っていて、大会に出場するなど楽しんでいました。子どもたちはずっと外で遊んでいて…近所の学年も違う友達と公園などでよく集まって過ごしていました。遊具も十分にないのに、何をしていたのかはよくわからなかったですが…(笑)。休暇には、家族でバーベキューや川遊びをして過ごすことが恒例行事。当時はそこまでありがたみを感じていませんでしたが、そうやって、子どもの幼少期に秦野でのびのびと過ごすことができた経験が、今になっては大きかったなと感じています。

秦野に移り住んでからの20年間のうち7年間ほど、海外転勤でインド、その次にタイで過ごすことになりました。ちょうど子どもが小学校高学年〜高校生ぐらいの間でした。当時は安全面を考慮して、自宅や学校の敷地内など限られた場所でしか遊ばせてあげることができなかったので、なおさら、秦野での暮らしが無かったらどうなっていたのだろう…と考えてしまいます。
海外から戻ってきたのは2020年10月で、新型コロナウイルスの影響で隔離があった時期でした。日本には子どもたちよりも3カ月も早く帰国していたこともあり、自宅に引きこもりながら、これからのことを考える時間が多くなりました。この3カ月の間は、「〜のお母さん」のように呼ばれる子ども中心の生活から一変し、私はこれから何をしたらいいだろう…と、自分自身のことを考えていました。そんなときに出会ったのが、蓑毛で開催されていた森林セラピーでした。
森林セラピーを体験「自分のライフワークにしたい!」

森林セラピーとは科学的に健康効果が証明された森林浴のことで、手で触る、耳で聴く、匂いを嗅ぐ、味わうなど、五感を働かせながら歩くことでリラックス効果を得られるものです。秦野には、各々の地形を生かした5つの森林セラピーロードがありますが、表丹沢の山間にある蓑毛では、里山ならではの豊かな森・川や、歴史を感じられる文化財をめぐる森林セラピーロードが整備されています。

実際に蓑毛で開催されていた森林セラピーに参加して、海外生活やコロナの期間後だったこともあり、自然の中で季節を感じるようなことをしたいと切望していたことに気づきました。
大人になってから地べたに寝転がるなんてしたことがなかったけど…(笑)、森林セラピーで改めて「寝転び体験」をしてみると、背中に感じる冷たい土の感触や、下から見上げる空、葉っぱが細やかに揺れる様子など、忘れていた感覚が次々と呼び起こされました。うつ伏せになると、草の細部までマクロで見えたり、知らなかった花に気づいたり、こんな小さな世界が広がっていたんだなと。
しばらく目を閉じてみると、まるで生まれ変わったかのように心身がリセットされる感覚になり「ここからやっていこう」と力がみなぎるのを感じました。

子どもが手から離れると同時に自分の居場所探しをしているような感じがあったのですが、森林セラピーの体験で「これだ!」とピンときて、その後、すぐに森林セラピーガイドの資格を取得しました。自らのライフワークとして、森林セラピー体験で感じたことをたくさんの人に伝えたいと思い、森林セラピーガイドのサポートから活動を始めました。
OMOTANの森林セラピーガイドとして

秦野市のOMOTANガイドの認定も受け、森林セラピーガイドの案内をするようになりました。何と言ってもやりがいは一期一会です。参加してくれた方々との出会いはもちろん、その日その瞬間にしか出会えない自然の美しさに心が動かされることもあります。同じコースでも一度たりとも同じ景色は無くて、自然が相手なので毎回発見があるんですよね。

森林セラピーを案内していると、森に馴染んでくるにつれて参加者の皆さんの表情が変わってくるのがわかります。香りや触りごこちなどを自分なりの感性で表現してくれるようになったら五感が開いてきている証拠!特に女性だと、顔色が明るくなるようなことが多いですね。後半には、森の中で寝転んだり、お茶の時間を設けて、ゆっくりと森を味わってもらうことを大切にしています。


一番心がけていることは、森林セラピーを通して身近な自然と繋がれるような新しい気づきを持って帰ってもらうこと。それが、少しでも自分の行動を変えるきっかけになったら嬉しいです。特に働き世代は多忙やストレスで自律神経が乱れてしまいがち、疲れていて限界がきていることに気づけない人も多いので、現役世代にも届くように企業の福利厚生などの一環に組み込んでもらうなど広めていきたいです。
蓑毛に通いつめて「蓑毛地区活性化対策委員会」の一員に

森林セラピーと同じくして出会ったのが蓑毛でした。秦野駅からヤビツ峠に行く途中にある小さな村なのですが、里山らしいのどかな雰囲気が漂っています。もともと、蓑毛地区活性化対策委員会は自治会の人たちが作った会なのですが、森林セラピーガイドさんに活動内容を聞いて「手伝いにきてもいいですか?」と尋ね、毎回のように蓑毛に通っていました。
表丹沢の人気の山、三ノ塔でのトイレ掃除にはじめて参加したときには、山に登るのに長靴で参加して驚かれたことも(笑)
一年ほど経った後に「会に入りませんか?」とお声がけいただきました。蓑毛地区活性化対策委員会に地区外の人間が入会するのははじめてのことです。現在、私は、森林セラピー、三ノ塔のトイレ管理、蓑毛ふる里自然村の運営に携わっています。

そのほかにも、蓑毛地区活性化対策委員会では、シーズンになるとたくさんの人が訪れる蓑毛の淡墨桜のライトアップの整備など、地域の魅力を知ってもらうさまざまな活動をしているんですよ。

蓑毛のふる里自然村で農業体験

蓑毛ふる里自然村は、2015年から始まった活性化プロジェクトの一つで、すでに約10年続いています。年間を通してお申し込みいただき、田植え、稲刈り、収穫まで体験できます。収穫したお米やお野菜などを使って、みんなでバーベキューやお料理をして団らんしながら食べることまでがセットです。

参加者は秦野市内だけでなく都内からの方も多く、友人からの紹介や口コミで広まり、お申し込みいただいています。毎年参加してくれるご家族もいるので、「あれ?お子さんまた大きくなったね!」なんて言葉も飛び交うほど、大テーブルを囲むとまるで親戚の集まりのようですよね(笑)。


参加者からは「釜で炊いたお米がおいしすぎて、毎回ごほうびがあるので楽しみに参加しています」や「土を触って畑仕事をしてみたかった!良い経験をさせてもらっています」など、毎回喜びの声をいただいています。
蓑毛での活動は、関係人口を増やし地域活性化に貢献したいと考えています。蓑毛地区活性化対策委員会の活動をお手伝いをしたい人も大歓迎!4月から自然村の村民も募集中です。

OMOTANガイドとして秦野のプロでありたい
OMOTANガイドとして活動させてもらって、東北の旅行会社から大山ガイドの依頼がありました。はじめてのことだったので不安もあったのですが、実際に案内してみると予想外に喜んでもらえて。
今まで秦野や蓑毛を拠点に活動してきて、一番の魅力はそこに住んでいる人だと思っているんです。地図を見れば場所には辿り着けるけど、例えば「うちの庭に花が咲いているから見ていきなよ」とか「庭のみかん持っていく?」とか、そこから派生して地元の話題になることもあります。そういった、地元ガイドならではの目線で案内することが私の役目なのかなと感じるきっかけとなりました。
これからは、森林セラピーを軸にしつつ、地域を巻き込んでいきたいと思っているんです。この間は、森林セラピーロードを歩いた後に蓑毛のベリー園に立ち寄ってハーブを摘ませてもらい、参加者にハーブティーを飲んでもらいました。

OMOTANガイドとして「秦野のプロ」でありたいなと。これからも地域の人たちと協力しながら秦野の魅力を広めていきたいです。

■OMOTANガイド伊井 美穂さん
https://omotan-hadano.jp/omotanguide/iimiho/
連絡先:eemipo@gmail.com
■OMOTANガイド 一覧
https://omotan-hadano.jp/omotanguide/
■森林セラピーのイベントhttps://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1601344142461/index.html
【得意分野】 登山、キャンプ、ハーブ、旅企画
山旅専門の会社で企画手配や添乗の仕事をしていました。秦野市に移住して約3年、丹沢の主要な山はすべて登り、庭でハーブを育てたり、夫婦でキャンプをしたりと、丹沢の奥深い自然とゆとりのある環境を満喫しています。山の経験や移住者目線を生かして、表丹沢の魅力をお届けします。
Instagram:@kawamura.chika