
県立秦野戸川公園の風の吊り橋の近く、塔ノ岳や鍋割山など表丹沢の登山口にある県立秦野ビジターセンター。山登りをする人にはおなじみの場所かもしれません。この建物で何が行われてるのか、館長の森谷洋志さん(57歳)にお話をうかがってきました!
目次
ビジターセンターのお仕事
秦野ビジターセンターは、西丹沢ビジターセンターとともに丹沢大山国定公園・県立丹沢大山自然公園を安全に楽しくご利用いただくための施設です。丹沢大山自然公園内の利用案内では、登山道の案内、登山のルールやマナー、開花状況や野鳥などについての自然情報のご紹介をしています。焚き火や指定場所以外でのテント泊の禁止といったご案内をすることもあります。
ビジターセンター館内では丹沢に関する地形のジオラマをはじめ、野生動物の剥製、岩石や山と信仰に関する資料などを展示しています。また、公募制の自然教室や団体プログラムを企画し、丹沢の自然に親しむことから、丹沢で起こっている問題や自然再生活動についてなど、利用者にあわせたさまざまな視点で丹沢を伝えています。
自然を案内する
直接ご来館いただいた方はもちろん、電話での丹沢大山自然公園利用のご相談にもお答えしています。情報として一番求められているものは、積雪状況·登山道の様子をはじめとした登山道の状況ですね。ここ数年は大きな自然災害が多く、特にどこの登山道が通れて、どこが通れないかが非常に重要になっています。


例えばお昼近くになって「今日登りたいんですけど」と、相談を受けることもあります。こういうご相談に関しては、日没までに下山できるかどうかを一つの基準にお答えしています。いらっしゃる方もさまざまでして、装備をきちんと整えてくる人もいますし、普段着で来たり、履物もサンダルで来る人もいます。他にもスポーツ経験があるかなどを聞いて、総合的に考え安全に登って下山できるかお話をしています。ちょっと難しそうだなと思った場合は、今日は中止した方が良いですよとお伝えする場合もあります。それでも行きたいという方もいらっしゃるので、そういう場合にはこの時間までにこの場所に着いていなかったら戻った方が良いですよ、という案内をしています。


自然情報ではお花の咲いている場所のご案内が多いですね。丹沢大山自然公園内にはシロヤシオなどのツツジ類が咲いているところがあります。こちらの開花は5~6月頃で、開花状況や咲いている場所のお電話でのお問い合わせがよくあります。秋の紅葉シーズンには、マスメディアからのお問い合わせがあったこともありますね。
こういった情報を提供するため月に2回、丹沢大山自然公園内に情報収集に出て行きます。2人1組で1日かけてさまざまな情報を集めます。この時にはカメラを持って行き、花や野鳥などの写真の記録や登山道の状況を確認しています。丹沢山や蛭ヶ岳へ登山する場合は業務時間内に下山しなくてはいけないので出発時刻を早めます。
こうして集めた情報を、ホームページやSNSで発信したり、常設展や企画展に活用したり、お問合せや日々の自然解説に活用したりしています。「丹沢」について知りたい、学びたい方々のみならず、より多くの方々に丹沢の自然について関心を持っていただくことそのものにやりがいを感じていますが、ご案内した方が帰る時にビジターセンターへ来て感謝の言葉を聞けるとうれしいですね。
館長という立場で最もやりがいを感じるのは、スタッフがのびのびと働いている姿を見た時ですね。できる限り そういった環境を作れるように意識しています。秦野市在住で、丹沢にゆかりのある絵本作家の舘野鴻さんの「どんぐり」という絵本の原画展(会期:2025年2月16日まで)の企画・実施をしたのもスタッフです。

表丹沢の魅力
私自身、地元出身で高校生ぐらいまでは表丹沢で登山をしていました。登山が好きになって、いろいろ有名な山へ登るようになったのですが、こんなにアクセスの良い山って本当に少ないと知りました。初心者でも登れる山がある一方、きつい登りのある塔ノ岳もある。急峻な地形のため深い渓谷や大小さまざまな滝を多く擁しているので、沢登りなどの楽しみ方もあります。本当に懐が深いなと思います。
豊かな自然が生活圏と近い位置関係にありながらも、たくさん残されている。植物で言えばツツジ類をはじめブナもありますし、野鳥もさまざまな種類がいます。私の立場で、あまり言えないですが、登山に熱中している頃は、動植物に目が全然いっていませんでした。野鳥ですと、まだキビタキと出会えていないので、早く会いたいです。表丹沢には沢山の楽しみ方があります。

未来に自然を残すこと、今知ってもらうこと
丹沢は昔、ブナが有名でした。しかし今では、丹沢山から蛭ヶ岳にかけての稜線などうっそうとしたブナ林だったところが点々と生えているような状態で、だいぶ薄くなってしまいました。雨の降り方も変わって一度にたくさん降るようになり、土壌の流失も起きるようになりました。温暖化や天敵となるオオカミの絶滅などざまざまな要因によりシカが増えたことで笹など地表を覆う植物が減ってしまったことも原因の一部と考えられています。
当館には、令和5年度の一年間に約11万人の方にご来館いただきました。また、山に目を向けると令和3年3月から令和4年2月までの間に、塔ノ岳に8万8千人、鍋割山に3万5千人の方が登られました。
それだけの方に丹沢を知ってもらえていることはとてもうれしいことです。しかし、その一方、避けられないこととして人間が自然に与える影響があります。
人が通った土は踏み固められてしまい、植物は生えづらくなります。こういったことを防ぐために、保全対策事業として木道を整備して植物を保護したり、稜線部などの約1,867ヘクタールは特別保護地区とするなど、さまざまな対策が取られています。
こういった課題と活動を多くの方にご理解いただき、ご協力いただくということが目標でもあります。環境の保護という即座に結果が出る性質のものではないのでたくさんの方に望まれた上で取り組んでいく方が、より良い結果につながるだろうと思います。山に限った話ではないのですが、楽しむ対象があってこその楽しみであり、無くなってしまってはどうにもなりません。守るべきものを正しい考えで守っていき、楽しみを後の世代につなげられればいいなと思っています。
今後我々ビジターセンターも、丹沢の自然の魅力はもちろん、丹沢が抱えている問題などを分かりやすくお伝えし、多くの方に関心を持っていただけるよう取り組んでいきます。こういった現状を知っていただき関心を持っていただけた方の中から、これからの丹沢の自然を守っていく活動をしてくれる、担い手のような方が出てきてくれたら本当にうれしいですね。

県立秦野ビジターセンター
住所:〒259-1304 神奈川県秦野市堀山下1513
電話番号:0463-87-9300
開館日時:午前9時~午後4時30分(休館日:年末年始12月29日~翌年1月3日)
施設HP:https://www.kanagawa-park.or.jp/tanzawavc/index.html
アクセス
・公共交通機関
小田急線渋沢駅から大倉行きバス15分、終点大倉バス停下車
バスの料金や時刻表はこちら(神奈川中央交通)
・車
東名高速道路 秦野中井I.C.から約30分/新東名高速道路 秦野丹沢スマートI.C.から約10分
※県立秦野戸川公園の駐車場をご利用ください。全日有料/利用時間 午前8時~午後9時