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【ライター記事】日本初プロトレイルランナー石川弘樹(いしかわひろき)さん【私のOMOTANライフ vol.4】

世界を駆け抜けたトレイルランナー、石川さんに聞く表丹沢の魅力とは?

山や森林にある未舗装の自然道(トレイル)を走るトレイルランニング。近年人気が高まり、日本でも多くの大会が開催されるようになりました。その第一人者であり、2001年に日本初のプロトレイルランナーとなった石川弘樹さん(49歳)は、日本国内にとどまらず世界中で活躍し、好成績を収めました。現在はトレイルランニングレースのプロデュースやイベント講師、トレイル整備など普及活動に力を注いでいます。
今回は秦野市在住の石川さんにトレイルランニングの楽しさとともに、表丹沢の魅力やおすすめのルートについてうかがいました。この記事を読めば、表丹沢の豊かな自然を感じながら、トレイルランニングに挑戦してみたくなるかもしれません……!

大山から始めたトレラントレーニング

穏やかな語り口でトレイルランニングについて教えてくださいました

――トレイルランニングを始めたきっかけを教えてください。

僕がトレイルランニングを始めたのは大学生の頃、20歳過ぎのときでした。それまでは小学2年生からサッカーを始め、365日サッカー漬けの生活を送っていて、将来は実業団でやれたらいいなと思っていたんです。でも大学に入学して、プロになるのは厳しいかなと現実を見始めた頃、自分の人生を振り返ると「サッカー以外何もしていない」と気づきました。

そんな中、次に興味を持ったのが音楽です。音楽の知識を深めるためにクラブでアルバイトを始めました。そこで出会ったお客さんに誘われて、助っ人でサッカーをしに行ったのがきっかけで、アドベンチャーレースという競技を知りました。そのチームには、日本人で初めてアドベンチャーレースに出場した方たちがいて、話を聞いたらとにかく面白そうで。レースで走ったり、自転車に乗ったり、カヌーをこいだり、クライミングしたりするなんて、まるで冒険のようなすごい世界があるんだなと思いました。

僕が最初にトレイルを走ったのは、青木ヶ原の樹海。こんなに面白いスポーツがあるんだと感動しました。その後トレーニングのために、走り始めたのが小学生の頃に遠足で登った大山です。やがて丹沢の地図を広げて、いろいろなコースを探して走るようになりました。普通は歩いて1泊2日くらいかかるコースを1日で走るような感じです。当時はトレイルランニングという言葉もなく、情報も少なかったので、自分で走り方を研究しながら試行錯誤していました。 見よう見まねで走っていたのですが、1999年に出場した北丹沢山岳耐久レースで2位に入賞したんです。そのレースで若くして走っている人はほとんどいなくて、さらに僕は長髪にルーズな短パンというラフなスタイルだったので、「君、本当に走ってきたの?」と驚かれたのを覚えています(笑)。

自宅には優勝トロフィーなど、世界中のレースに関する多くのグッズが飾られていました
雄大な自然を舞台にトレイルランニングに挑む石川さん(提供:石川弘樹さん)

語りつくせない! トレイルランニングの面白さ

――トレイルランニングの魅力は何だと思いますか?

トレイルランニングって、本当に魅力だらけなんです!

まず、山の中を「走って遊ぶ」ことができるアクティビティなんですよ。普通「走る」と聞くと、トレーニングや競技など少し大変で辛いイメージがありますよね。でもトレイルランニングは、笑顔で楽しめる「遊び」の要素が入っているんです。

天候や季節、時間によって周りの景色が全然違うんですよ。同じ1日でも、朝陽や夕陽の当たり方によって自然の表情が大きく変わります。紅葉の山はもちろん美しいですが、強風の翌日も地面に落ちた葉がすごくきれいだったり、霧が立ちこめる日は景色が見えにくくても、幻想的な雰囲気だったり。街中みたいにアスファルトの単調な景色ではなくて、自然が毎回違う顔を見せてくれるんです。

あとは木の根っこや岩を越えて、飛んだり跳ねたり、滑らないように気を付けたり、大股で走ったり小股で走ったり……トレイルの状況を見極めながら、体をうまく使って遊ぶ感覚もまた楽しい。走ることでスピード感も加わるから、爽快感も味わえます。

景色も楽しめる、遊び心もある、スピード感もある……いろいろな面白い要素が合わさっているのがトレイルランニングの醍醐味だと思います! こんなに楽しいことが詰まったランニングだからこそ、仲間と一緒に遊べるのも大きな魅力なんです。

変化に富んだ地形を軽快に駆け抜ける石川さん(提供:石川弘樹さん)
石川さんが現在使用しているトレラン用シューズ

――お話しを聞いているだけでワクワクしてきました!

ジョギングなら家を出たらすぐに走れますが、トレイルランニングは、ネガティブに捉えると「山に行かないとできないスポーツ」なんですよね。でも逆にポジティブに考えると「いろいろな場所に行ける」ということでもあるんです。

走る場所を調べるだけでもワクワクしますし、その土地の美味しいものを味わったり、ご当地ならではの体験ができたりするのも楽しみの一つです。トレイルランニングはスポーツでありながら、レジャーとしての楽しさも大いに感じられますよね。

さらに、競技としての面白さもあります。トレイルランニングのレースは10時間以上の長丁場も珍しくありません。短距離走のように、スタート直後からトップに立たなければ勝てないわけではなく、長距離ならではの戦略が必要です。

例えばレースでは、実業団の選手や箱根駅伝のランナーが出場することもあり、彼らはスタートから桁違いのスピードで走ります。でも長距離になってくると、単なるスピードだけでなく、己を知り、ペース配分や体力などをどのようにコントロールするかが鍵となります。そのため、さまざまな層の選手が上位を目指して競い合えるんです。一筋縄ではいかない難しさが本当に面白い。

しかも、レースでは主催者がコースをわかりやすくマーキングしてくれる他、途中にはエイドステーションが設置され、食べ物や飲み物が提供されます。安全に管理された環境の中で、20kmから100kmもの長距離に挑戦することができるんです。制限時間はありますが、安心して走れる環境が整っているのもありがたいですよね。

またマラソンレースでは歩いていると「どこか具合が悪いのかな?」と思われることがあるかもしれませんが、起伏のあるトレイルでは歩くのが当たり前。歩きながら他の選手と会話を楽しめるのも面白いと思います。

石川さんはアドベンチャーレースやトレイルランニングを通じて世界32カ国を訪れたそうです

表丹沢が魅せる多彩なトレイルコース

――秦野市に引っ越したきっかけを教えてください。

10年ほど前に秦野市に引っ越してきました。サーフィンも好きなので、前に鎌倉市に住んでいたときは「一生鎌倉に住むんだろうな」と思っていたんです。でもトレイルランニングを始めた当初から丹沢を走っていたので、勝手知ったる山の麓で生活したいなと思うようになりました。ちょうどタイミングよく秦野市内の山の近くに理想的な家が見つかったため、移り住むことに決めたんです。

実は「海がいいか?山がいいか?」と迷ったこともありました。でも最終的には「やっぱり山から離れたくない!」と心が決まりました(笑)。秦野は大磯にも近く、海にも行きやすいのがうれしいです。仕事で日本全国に出かけますが、やっぱりこっちに帰ってくるとホッとしますね。

愛犬レアちゃんも一緒に丹沢を走るそうです

――表丹沢を走る大山サーキットというトレラン用ルートを提案されたとか?

そのルートは、20年以上前に僕がよく鍛えられたコースなんですよ。大山や塔の岳界隈のメインルートは登山者が多いため、走るコースとしてはあまりおすすめできませんが、ここは秦野駅発着でアクセスが良く、マイナーなルートも含まれているため、ランナーが走っても他の登山者と干渉しにくいのが特徴です。時々キツいところもありますが比較的挑戦しやすいと思います。

ルート上の善波峠から高取山、浅間山へと続くところは標高こそ300m〜700mと低いものの、急な斜面や木の根が多く張り出した場所があり、登りがいがありますね。それでも長い尾根なので走れるところも多く、バランスの取れたコースになっています。ヤビツ峠から菩提峠、三ノ塔へのルートは人も少なく、走りやすいです。

ヤビツ峠にはトイレの他、売店やレストハウスがあり、軽食や飲料の補充も可能

それから大山山頂や三ノ塔からの眺めもきれいですが、菩提峠近くのパラグライダーの発着所から見える景色が本当に素晴らしいんです。ここは知らない方も多いのではないでしょうか。さらに三ノ塔から大倉までの尾根道もほとんど人がいないので、一気に駆け下りることができると思います。

秦野市を一望できるパラグライダー発着所

あとは山だけでなく、最後に河川敷を走る区間があるのもトレーニングにはぴったりで。右回りや左回りなど、走る方向を変えて挑戦すれば、しっかり体を鍛えることができます(笑)。ルート全体がまさにトレイルランナーのためにあるような場所ですね。よく走っていた当時は一周走るのに4時間かからなかったんじゃないかな。

最近はトレイルランニングを楽しむ人が増えてきていますよね。それだけに、マナーやモラルにも気を配って欲しいと思います。走るときは、登りでも下りでも他の利用者へ挨拶するのはもちろんのこと、すれ違うときは歩くなど、最善の注意を払ってもらいたいですね

表丹沢は、大倉から塔ノ岳へ登るバカ尾根が特に有名ですが、それ以外にも魅力的なコースがたくさんああります。いろいろなコースに挑戦して、新たな楽しさを見つけるのもいいですね。

ポイント
「大山サーキット」は、石川さんが提案された大山などを巡る全長約31kmの周回トレイルランニングコース。秦野駅から権現山、弘法山、念仏山、浅間山などを経て大山山頂へ。大山からはイタツミ尾根を下り、ヤビツ峠、岳ノ台、菩提峠を経て三ノ塔へ。三ノ塔からは三ノ塔尾根を走り大倉へ下ります。その後は水無川の河川敷を走り、秦野駅へ戻ります(大山山頂付近は登山者が多いので、歩くことが推奨されています)
https://www.strava.com/routes/2877542350710800526

――とても走りごたえのあるコースですね。

でも表丹沢というと「急な山が多い」というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、それだけではないんです。秦野駅近くの権現山から弘法山、その先の念仏山あたりは、走りやすいルートがたくさんあります。特に弘法山には枝道みたいな小道も多くて、山に走り慣れていない人でも楽しめるんじゃないかなと思います。

弘法山は秦野市によりしっかり管理されています。トレイル脇の木には、全てナンバリングされた札が掛けられていて、本当に素晴らしい取り組みだと思います。倒れそうな木や枯れ木があっても、きちんと管理されていると安心ですよね。

「倒木注意」といった案内があるだけでも十分ありがたいのですが、弘法山のようにあそこまで徹底して管理されている山はなかなか珍しいと思います。

弘法山では多くの木に札がかけられています

――石川さんご自身も弘法山で清掃活動をされているそうですね。

時間があるときに、自宅から1kmほどの距離にある弘法山で清掃活動を手伝っています。「弘法山を守る会」というボランティア団体があり、有志の方々が活動されているんです。雨の日以外は毎日清掃を続けている方がいて、本当に頭が下がります。実は、こちらの方々と活動後に開かれるお茶会がとても楽しいんですよ。

他県の山では、山中の神社や鳥居が管理されず、壊れていることもありました。でも弘法山は「弘法山を守る会」と自治体が協力して取り組んでいるおかげで、山頂や登山道などはいつ訪れてもきれいで快適に過ごせます。たくさんの人に支えられている場所なんだなと感じます。

2024年12月に、弘法山に新しく展望デッキが完成したんです。眺望が素晴らしいので、ぜひ訪れてみてほしいですね。夜景もとてもきれいですよ。

弘法山にある見晴らしのいい展望デッキ
晴れた日は展望デッキから相模湾まで見渡せます

地元に根付いた新しい取り組みを実現したい

――今後、表丹沢で挑戦したいことなどはありますか?

グリーンシーズンの丹沢はヤマビルが多いとよく耳にします。ヤマビルの対策や駆除について、何かできないかなと考えているんです。一番の対策は、そもそもヤマビルが発生しない環境を作ることですよね。効果的なのは、トレイルやその周囲の落ち葉や枯木をできる限り取り除き、ヤマビルが生息しづらい環境を整えることです。

さらに、友人から聞いて実現できたら素晴らしいと思ったのが、「鹿と一緒に対策する」というアイデアです。具体的には、鹿に悪影響がない特別な餌を与えて、その血を吸ったヒルが死滅したり、繁殖できなくなるような仕組みを作れたらいいなと。ヤマビルを広める原因となっている鹿を介して逆に減らすという発想です。実際にはハードルが高いかもしれませんが、理想は掲げていきたいですね。

ただ僕自身は走っているときに、ヤマビルの被害に遭ったことがないんです。多分、じっとしていないからでしょうね(笑)。ヒル避けスプレーも使っていません。でも犬の散歩をしているときや掃除しているときは、気が付いたら足にくっついていることがありますね。

ヤマビルの問題に限らず、自然と共存しながら楽しめる環境作りに取り組めたらいいですね。全国でトレイルランニングレースのプロデュースなど行っていますが、今後は僕自身もっと地元に根付いた活動をしていきたいと考えています。秦野市で若い方々が企画するトレイルランニングのイベントにも協力できればうれしいです。

■石川弘樹さん
Instagram:https://www.instagram.com/dirtytrailrunner/?hl=ja

OMOTANライター 深瀬 あみ (ふかせ あみ)
【得意分野】 登山、キャンプ

ライター、カメラマンとして活動しながら、趣味の山登りを楽しんでいます。
神奈川に移り住み、初めて表丹沢を訪れたとき、その美しさにすぐに引き込まれました。
自然の息吹を感じられる表丹沢の素晴らしさを、言葉と写真でお届けします。 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

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