
暑い日にも寒い日にもおいしく食べられるそば。栄養価も高く様々なメニューが楽しめて、好物という方も多いのではないでしょうか。実は、そばはここ秦野の名産品の一つなんです。市内にはおいしいそば屋が多いと、そば通の間でも有名なのだとか。そんなわけで今回は秦野名産品である、そばの魅力を徹底的に紐解いていきます!
記事後半ではそば打ち体験のレポートも。「食べるのも好きだけど、実は自分で打ってみたいんだよね」「家族や友人といつか打ちに行きたい」なんて方も、必見ですよ~!
目次
秦野のそば栽培の歴史に葉たばこあり!

そもそも、なぜ秦野の名産品としてそばが挙がるのでしょうか。まずは秦野のそば栽培の歴史について、「ふるさと秦野そば組合」組合長である桐山清さん(69歳)にお話を伺ってきました。
桐山さんによると、秦野のそばは今でこそ秦野の名産品ですが、その背景にはかつて秦野の名産品で、日本の三大生産地のひとつにも数えられた「葉たばこ」の存在が深く関わっているといいます。
「江戸時代から秦野では葉たばこが生産されていました。大体8月初旬に葉たばこを畑から収穫すると、畑が空きますね。その空いた畑にそばの種を蒔いていました。そばの種蒔きは8月下旬ですから、タイミングが良かったんですね。また、葉たばこ栽培には大量の堆肥を使うので、収穫後も畑の土は肥えていて、そばの肥料は殆ど入れなくても良かったのもありました。夏の暑い天日に向かって収穫した葉たばこを吊るして干し、秋になると今度は畑一面にそばの花が咲き始める。そういう風景がこの辺りでは広がっていました」
つまり、そばは葉たばこの後作だったのです!
さらに桐山さんによると、この時栽培していたそばは、農家の人たちが主食の一つとして自己消費しており、親戚や近所の人が集まると、飲食の締めとしてそばがふるまわれていたといいます。その後、JT/日本たばこ産業(旧日本専売公社)の移転に伴い、秦野の葉たばこ産業も終焉を迎えて農業を離れる人も多くなり、そば栽培も一度は減少していきました。
「ふるさと秦野そば組合」では耕作放棄地を活用して、そばを栽培する「そばのまち秦野」が復活できるよう、取り組みを続けています。
水捌けのよい火山灰土壌が育んだ、秦野産そばの特長

秦野でたばことそばの栽培が根付いたのは、土の影響もあるのでしょうと、桐山さんは続けます。
「秦野の土は、火山灰土壌。たばこもそばも水が苦手で、この土は水捌けがよかったことが、どちらの栽培にも適していました。また、近くに里山があり、里山で集めた木の葉で沢山の堆肥を作れたことも良かったのではないでしょうか。火山灰土壌のこの土地で、どういった作物なら育てられるか、昔の人が模索したのでしょうね。」
種蒔きや収穫のタイミングに加え、土壌の条件もあっていたとは。たばことそば、一見交わることのない二つの作物の間に、何だか運命のようなものを感じます。そんな秦野産のそばですが、どういったところが特長なのでしょうか。
「まずは風味が良く、香り高いこと。それから甘味も特長です。食べた時に口の中でほんのりとした甘みが残るのを、ぜひ感じてみてほしいです」 現在、桐山さんの畑では、春と秋の二回収穫されるキタワセ種と、秋に収穫される秦野在来種の二種類のそばを育てているそうです。秦野在来種のそばの花がちょうど見頃を迎えるとのことで、特別にそば畑を見させて頂きました。
白く小さなそばの花が風に揺れる。それは、表丹沢の秋の原風景

9月中旬から10月にかけての一気に秋が深まるこの時期、表丹沢のあちらこちらでそばの花が咲き始めます。 関東大震災でできた震生湖の近くには、地球物理学者であり俳人でもあった寺田寅彦の句碑、「そば陸稲(おかぼ)丸う山越す 秋の風」が建てられています。震生湖の調査で秦野の地を訪れていた寺田の目に、きれいなそばの花が飛び込んできたのでしょう。

風が吹くたびにふわふわと花がたなびく様子は、確かにとても心惹かれました。表丹沢で暮らす人々にとって、秋空の下でそばの花が風に揺れているこの景色は、ずっと心の側にある原風景のようなものなのかもしれないと改めて感じました。
秦野産のそばの味を確かめに…そば処「東雲」でそば打ち体験やってみた!

秦野産のそばの歴史や魅力を知り、せっかくならそのお味も確かめたい!という訳で、田原ふるさと公園内にお店を構える、そば処「東雲(しののめ)」にやってきました。こちらでは桐山さんが卸したそば粉を使用しており、さらにそば打ち体験も行っています。これはぜひ、そば打ちに挑戦です!

2025年で創業25年を迎えるそば処「東雲(しののめ)」。代表の山田洋子さんはかつて料理教室を運営しており、働く皆さんのなかにはその頃の生徒さんもいらっしゃるそう。
「東雲」の営業を始める際には、スタッフ一人一人がそばを打てるだけでなく、そば打ち体験で指導もできるように、山田さん自ら個人指導をしっかり行ったとのことで、店内には「秦野手打ちそば認定指導者」を取得したスタッフの名前がずらりと掲示されていました。 そば打ち体験の所要時間は大体1時間ほど。1セット5,600円(4人分)から予約ができます。

そば打ち体験は、店舗の2階で行います。まずは手順や道具、材料の確認です。今回は下記の材料でそばを手打ちしていきます。
【材料(4人前)】
・そば粉 280g
・打ち粉(そば粉)70g
・小麦粉(中力粉)
・熱湯 170~200cc
(引用元:そば処「東雲」手打ちそばづくり)

さぁ、手順や材料を確認した後は、お借りした「しののめ」の店名入りのエプロンに着替えて、そば打ち体験のスタートです!
まずはそば粉と小麦粉をまぜるところから…何事も最初が肝心

まずは、そば粉(280g)と小麦粉(120g)を、丁寧にふるいにかけていきます。そば粉と小麦粉の配合はいわゆる「七割そば」。「東雲」の店舗でふるまわれているのは「八割そば」で、そば粉の割合が多く打つのが難しいそうです。

手でもしっかり混ぜ合わせてならした後は、真ん中に山を作り中心をへこませ、3~4回に分けて熱湯を入れていきます。水だとどうしても固まりづらく、打つのが難しくなるので熱湯を使うそうです。(熱いので火傷に注意してくださいね!)
全体重をかけ、おいしいそばができるようにしっかりこねていく

熱湯を入れた後はひたすらにこねていきます。サラサラしていた粉が、だんだんとモロモロしてきたのがわかりますよね!指についた粉も払いながら均等に混ぜ合わせていきます。
同じ作業をしていた先生の手にはそばがほとんどついておらず、きれいなままでさすがでした!

さぁこねる作業も終盤戦!ここからは全体重をかけてこねていきます。力がちゃんとそば粉に伝わっているかは、そば粉の状態を見ればわかるものなのだそう。後行程のためにも大事な部分。しっかり力を込めてこねていきます。
それにしても、結構な力作業でびっくり!お店では一日100食以上出るそうで、この作業を毎日やるのはとても大変だなと実感しました。
そば打ちの花形作業?!薄く薄ーく繊細にのしていきます

大体7分間くらいこね続けて生地があらかたまとまってきたら、円錐形に形を整えます。この時下から押し上げるような形で作るとうまくいくそうです。円錐形ができたらこね鉢から取り出し、縁の部分から押し伸ばすようにまずは手でのしていきます。

20㎝くらいに伸ばしたらいよいよ麺棒の登場です。時々生地を回して、厚さが同じになるよう、丁寧に丁寧にのしていきます。

四方が50㎝くらいになってきたら、今度は麺棒に巻きつけ転がすようにして、さらに生地をのしていきます。生地を麺棒に巻いたまま押し転がし、ある程度転がしたら麺棒を身体に向かって手前にひくのですが、ここでしっかり麺棒を押しつけたままひっぱることで、より生地が伸びるそうです。
麺棒に巻きつけて転がしながら伸ばす作業を、一方向につき5~6回行います。終わったら麺棒に巻きつけたまま生地を回して広げた後、四方向に同じように繰り返していきます。均等に力をかけて転がさないと、破けてしまうところも出てくるので、注意が必要です!

実際、この巻き付けて転がしながらのす作業が一番難しかったです!ここまでは順調でしたが、生地が薄く、大きくなってくると方向転換も一苦労。失敗して、生地が少し破けてしまいました…。ただ、そんな時も隣で先生が見ていてくれるので安心ですよ。

最終的に一辺が75㎝くらいの四角形にしていきます。へこんでしまった部分は重点的に伸ばして、きれいな四角形になるようにのしていきましょう。生地に厚みを見つけたら押し出すように、時には手で確かめながら、とにかく薄く均一に均していきます。
ここまできたら後もう少し!気が付くと、真剣になりすぎて汗をかいていました。
まっすぐおろして、少し左へ。初めてのそば切り包丁

生地を折りたたんだら、そば切り包丁の出番です。包丁は根本で手を結ぶようにしてしっかり握ること。かなり重いのでこれまたびっくりしてしまいました。
下までまっすぐ刃を下ろしたら、ほんの少し左に傾けます。そうすることで生地を押さえている板がずれて、自動的に次に切る分だけのそばが押し出されます。

そばの生地はとても柔らかく、下までしっかり刃をおろしたつもりでも、最後まで切れていないことも。最初の方に切っていたそばは繋がってしまっていました…。気を取り直して、幅も揃うように丁寧に切っていきます。

開始から50分。ようやく四人前のそばが出来上がりました~!思っていたより身体全体を使って集中して打っていたので、作り終えた時にはすっかりお腹がすいていました(笑)。
何よりずっとそばのいい香り!出来上がったそばは店舗で茹でてもらえるとのことで、この後はお待ちかねの実食です♪
自分で打った「三たてそば」の味。お店とはまた違ったおいしさです

夏まっさかりだった取材日。自分で打ったそばが冷たいざるそばとなって登場した姿に、思わず笑みがこぼれます。「いただきまーす!」果たしてそのお味は…?

そばつゆを付けてずずっと一口…うん、おいしい!打っている時からたっていた香りの高さもさることながら、口に含んだときに優しい甘味が感じられます。「ふるさと秦野そば組合」の桐山さんが言う通り、本当にじんわり甘いのだと印象的でした。麺の幅が揃っていないのはご愛嬌(笑)。こね方やのし方でまた味やコシが変わるのかな?なんて考えながら、あっという間に食べてしまいました。

代表の山田さんにそば打ち体験のおすすめポイントを改めて伺ったところ、「やっぱり、自分で打った『三たてのそば』が食べられるところですね。三たてとは、『挽きたて、打ちたて、茹でたて』のことで、おいしいおそばの条件とも言われるんです」とのお言葉が。
確かに、初めて自分で打った打ちたてのそばは細さも長さもばらばらと不揃いでしたが、お店のおそばとはまた違ったおいしさを感じました!
皆さんもぜひ、この「自分で打った三たてのそば」のおいしさを体験しに来てみてくださいね。
筆者あとがき

そばの歴史を紐解くところから始まった今回。ぜひ味わってみたい、せっかくなら打ってみたい!ということで、筆者にとっては初めてのそば打ち体験でした。そばをこねるのもそば包丁を扱うのも初めてでしたが、たくさん褒めてくださりながら教えて頂いたおかげで、最後はすっかり夢中に(笑)。そば打ちにはまってしまう人の気持ちがよくわかりました!次はあの部分をもっとああしたい…なんて考えてみたり。リピーターもとても多いとのことも頷けます。
「おそばが大好き、いつかは自分で打ってみたいけれど、初心者だから何もわからない!」「子どもにそば打ちを体験させたいけれど、どこでするのがいいかしら」。そんな方にこそおすすめの、「東雲」でのそば打ち体験でした!
■施設名:そば処「東雲」
■住 所:秦野市東田原999
■電話番号:0463-84-1282
■営業時間:平日 午前11時から午後2時
休日 午前11時から午後2時30分
注:どちらもそばが売り切れ次第終了
■定休日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日休み)、年末年始
■所要時間:1時間程度
■料金:1セット5,600円(4人分)
注:つゆ・薬味代は別に260円(1人分)かかります
注:1セットからの受付となります
■申し込み: 事前予約制
■施設情報
公式ホームページ:https://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1001000001204/index.html
(秦野市公式ホームページ)
【得意分野】 インタビュー、グルメ
フリーライターの那保です。国内旅行業務取扱管理者、添乗員資格有り。神社好き、シンガプーラ飼いの猫好き、美味しいものも大好き。
神奈川へは移住組、その多彩な魅力にまんまとハマってます。
表丹沢を駆け回れるようになるべく、目下体力づくりに奮闘中。インスタでは表丹沢ほか、魅力的な写真を投稿しているので、ぜひ覗いてみてください!
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