
メガネのつるに、さりげなくキノコのイラスト。物腰柔らかな佇まいが印象的。だけど森の中に入ると目の光が鋭く変わるその人は「つゆきのこ」こと、関東きのこの会の代表・露木啓さん。元キノコ問屋の営業マンで、退職後もキノコの情熱は冷めることなく、そのキノコ愛からテレビ出演や取材などメディアから依頼がくることも。普段は秦野市内の公園や緑地など街中でキノコ散策することが多いそうですが、今回はヤビツ峠に初挑戦!散策しながら、キノコの魅力や楽しみ方、関東きのこ会の活動、今後の野望についてインタビューしました。
目次
キノコの卸問屋で15年間勤めた後に、関東きのこ会を立ち上げる

取材前、記者は「キノコ探求者を前に、食べる専門の自分で良いのか」と緊張し取材日を迎えました。緊張を和らげてくれたのは露木さんの穏やかなお人柄。メガネのキノコ模様について聞くと「メガネ屋さんで“きのこめがね”が販売された時に思わず買っちゃいました。知り合いの作家さんのイラストなんです」と微笑みます。
露木さんは秦野市鶴巻で生まれ育ち、東京農業大学に進学。農家だった祖父母の姿に自身を重ね、自分も農業系の仕事に就くのだろうと漠然と考えていたといいます。そんなある日、目に飛び込んできた「キノコを運びませんか?」という求人メッセージ。この言葉に心惹かれて入社した伊勢原のキノコ専門の卸問屋で15年間勤めました。「キノコに特化した問屋は全国でも数少なくてそのうちの1社です。営業マンと二足のわらじでキノコの認知度アップのためのホームページを開設し、情報発信やイベント開催などに関わるうちに、自ずとキノコの知識が深まっていきました」と話します。
キノコは愛好家だけのものではない。色々な楽しみ方がある

初めは食べ物としての興味でしたが、多様な色や形、生態の在りようなどその奥深い魅力にはまり、休日もキノコ散策をするようになっていったそう。会社を退職後も、キノコのご縁でつながった仲間とキノコについて発信していけたらと2019年10月15日(きのこの日)に「関東きのこの会」を発足しました。
3人から始まった同会は現在では12人になり、キノコの料理レシピや生産者の情報など、キノコに関連するさまざまな情報を配信しています。露木さんは自身のことを「僕はキノコ愛好家の中ではライト層です」と謙遜しますが、キノコ好きの人の中には、芸術的な美しさを探求する人、生態系に詳しい人、キノコ専門料理のシェフ、散策好きな人、といった多様な楽しみ方があり、中にはストイックなこだわりを持つ愛好家もいるのだとか。露木さんは「僕はどんな些細なことからでも、キノコに興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思います。キノコの卸問屋で長く勤めていたので、生産者さんをはじめとするさまざまな出会いがあり、活動を通して貢献できたらという想いがあります」と目を細めます。
ヤビツ峠からスタートしたキノコ散策、「ヤビツ峠レストハウス」の周辺にも!

普段は街中でのキノコ散策が多いという露木さんが今回チャレンジしたのはヤビツ峠。ヤビツ峠は秦野駅から神奈川中央交通バス「蓑毛経由ヤビツ峠行」に乗って約50分、「ヤビツ峠」で下車して徒歩1分でアクセスできます。
ライターメモ
バスの本数は時間帯にもよりますが、数時間に1本なので、行き帰りの神奈川中央交通の時刻表(時刻表リンク:https://www.kanachu.co.jp/dia/diagram/timetable01/cs:0000801327-1/nid:00127715)の確認を。
また、キノコ散策の服装や持ち物は、露木さんのYouTube番組「つゆきのこ」で「きのこ散策する際の服装について、キノコ女子のちょこすき~☆さんに教えてもらいました!(リンク:https://www.youtube.com/watch?v=a9xfeRbK2DM)をご参考ください。
キノコといえば「キノコ狩り」のイメージがありますが、キノコが生えている場所の所有者に無許可で採取することは禁止されています。また、食用キノコの見極めは専門家でも難しいとのこと。露木さんのオススメは、ツアーなどでキノコ狩りを体験することだといいます。露木さんは「私もよく休日にキノコを見に出かけますが、土地所有者の許可なく、キノコ狩りはしません。あくまでキノコ散策として、街や野山を歩いてキノコを見つけ、撮影したり観察して楽しんでいます」とヤビツ峠に向かう車中で教えてくれました。
ヤビツ峠バス停から徒歩1分の「ヤビツ峠レストハウス丹沢MON CAFE」(過去取材記事:【ライター記事】「よし!ヤビツ行こう!」と思い立ったらまずここ! “休憩所”じゃ言い表せないヤビツ峠レストハウス丹沢MON CAFEの魅力【OMOTAN人 vol.3】)を通りかかると、以前記者がOMOTANライター記事で取材させていただいたオーナーの平野ご夫妻の姿が!記者が露木さんをご紹介するやいなや、迎え入れてくださり、あっという間にキノコ談義が始まりました。

自然に生息するキノコは主に梅雨時期と秋にシーズンを迎えますが、種類を選ばなければ年間を通して確認できます。取材日は残暑が厳しい9月で、さらに露木さん自身もあまり訪れたことが無いヤビツ峠です。そんな時は、ヤビツ峠に詳しい平野さんご夫妻に散策場所を相談です。平野有恒さんは「イタツミ屋根の辺りまで登ってみたらどうだろう」と地図を広げて丁寧に教えてくれました。さらには、レストハウスの周辺に生息するキノコも案内してくれました。その透明感と繊細な美しさに早速魅了される記者。


いよいよ、登山道を登りキノコ散策へ

平野ご夫妻に見送られながら、大山へと向かう登山道を登っていきます。山に入ってキノコを探し始めた露木さんは、森の息づかいに自身を馴染ませるかのように口数が少なくなり、淡々と獲物を見定めるような鋭い眼光に。「キノコを見つける眼のことを『キノコ眼がある』といいますよ」と教えてくれました。

探し始めて10分。レストハウスではすぐに見つかったキノコが、登山道では姿を見せてくれません。焦りを感じ始めた記者に露木さんは、こんな話をしてくれました。
「キノコは見えなくても、実際には菌糸が土中で広がり、ずっと活動しているんですよ。キノコが作った胞子は、風などで飛散して、倒木や落ち葉などの上に落ちて発芽します。胞子からは菌糸が伸び、広がっていきます。キノコは、大きく「腐生菌(ふせいきん)」と「菌根菌(きんこんきん)」に分かれ、腐生菌は落ち葉や倒木、切り株などに生える菌で、腐生菌の生育によって分解された木や落ち葉は朽ちて、土へ還ります。他の微生物が分解できない硬い樹木の幹や枝も分解できるから “森の掃除屋”とも呼ばれますね。菌根菌は、植物の根に共生し、土の中の養分を吸収して、それを植物に供給します。植物の根からも栄養分が菌根菌へ供給され、お互いに支え合って生きています」
落ち葉の下、木の下、土壌の中で、菌類が絶え間なく活動していると思うとキノコの凄みとともに、森の気配をぐんと濃厚に感じ始めました。
話に引き込まれるうちにキノコ発見!その迫力に見入る

露木さんの話に引きこまれるうちに「これはカワラタケですね」とついにキノコ発見!木にびっしり群生する、キノコの迫力に見入る記者に「ここまで広がると、まもなく木が分解されるでしょうね」と教えてくれました。

よく目をこらすと落ちた枝にもキノコが生えています。足元・左右に目を配りながら山道を行くと五感が研ぎ澄まされるよう。

キノコは日進月歩。見た目、成分、驚くほどの多様性

キノコを発見するたび、図鑑を広げる露木さん。
「図鑑を参考にしてはいますが、キノコは日進月歩なんです。従来の分類が年々是正され、どんどん変わっていくんですよ」と話し、さらに言葉を続けます。「キノコは不思議なんです。多様性があって何万種類とある中で、私たちが普段食べているのは10種類くらい。思わず触れたくなるほど美しい造形でも、触れるだけでただれてしまうこともあるキノコもあります」
出発から30分ほどで折り返し、スタート地点の「ヤビツ峠レストハウス」に戻るまでトータルで約1時間のちょうど良い散策でした。

後日、改めてヤビツ峠でのキノコ散策をしたという露木さんから、こんなに愛らしいキノコの写真が届きました!

地元秦野で実現したい!キノコ散策と蕎麦ツアー、キノコの菌打ち作業

秦野出身の露木さんは「秦野でしてみたいことがあります。今日のようにヤビツを拠点としたキノコ散策もいいですね。秦野の木を使って、丸太に種駒(たねごま:シイタケの菌糸を詰めたコルク)を埋め込む菌打ち作業をみんなでするのも良いですね。収穫までは1年がかりですが、それぞれが自宅に持って帰ってもらうこともできますよね。あと、秦野といえば『ナラタケ(通称:あしながキノコ)』ですよね。ヤビツ峠でキノコ観察をした後にあしながきのこ蕎麦を食べに行くツアーもいいですよね」と、どんどんアイデアが引き出されそう。
菌糸のネットワークのようにつながり広がっていく活動

「キノコを見ようと仲間と遠征したり、キノコ料理専門店やイベントに足を運んだりするうちに、全国へ行動範囲が広がっていきました」と話す露木さん。菌糸のようにじわじわと活動の場を広げる、露木さんの今後のご活躍も楽しみに!取材後、記者もキノコグッズがじわじわ増え続けております(笑)

露木 啓さん
■活動名:つゆきのこ
■関東きのこの会 https://kanto-kinoko.com
■X(旧Twitter) https://x.com/tsuyu_kinoko
■Youtube「つゆきのこチャンネル」 https://www.youtube.com/@tsuyu_kinoko/featured




