
秦野市の地域ブランド「はだのブランド」が2025年にリニューアルし、新たなコンセプトの「丹沢の杜、名水のまち」を体現する6品が、「はだのブランド」として認証されました。10月17日に秦野商工会議所で行われた、第1回はだのブランド認証式には、生産者や事業者、関係者の皆さんが集い、秦野の資源である“水”と“森”の恵みにあらためて思いを馳せていました。記者もその場に立ち会い、会場の空気から「はだのブランド」の新たな出発を強く感じました。長年、市民や事業者とともに育ててきた“秦野らしさ”を、これからどう磨いていくのか。新しい旗印として再出発した「はだのブランド」の背景と挑戦に迫ります。
目次
はだのブランドの歩み

秦野には、昔から“良いもの”があります。
清らかな水に育まれた農産物、丹沢の恵みを生かした加工品、そしてそれを支える人の手しごと。
そんな“秦野らしさ”を見つけ、育て、伝えていこうと始まったのが「はだのブランド」です。
その歩みは、平成22(2010)年8月、「はだのブランド推進協議会」の設立から始まりました。
翌年には専門部会が発足し、秦野産の素材を生かした商品開発に着手。記念すべき第1号として誕生したのが「はだのドーナツ」でした。
平成24(2012)年には第1回認証審査会が開催され、ブランド認証制度が本格的に始動します。
その後、ブランドネーム「みっけもん秦野」として第1回から第11回までに延べ63品が認証されました。
同時期には、市民参加型の体験イベント「はだのみっけもんの旅」もスタートし、平成30(2018)年から令和4(2022)年までの間に全37回、延べ678人が参加。地域の魅力を“体感するブランド事業”として広がっていきました。
しかし、令和の時代を迎え、人々の暮らしや価値観は多様化しました。“モノ”の魅力だけでなく、その背景にある“人と自然の物語”が求められるようになったのです。
そこで令和4(2022)年から、管理部会による制度の見直しが始まり、令和5(2023)年には、全国の地域ブランディングに精通した専門家と共に市内を視察しながら、新たなコンセプトとして「丹沢の杜、名水のまち」が提案されました。
そして、令和7(2025)年、新しい認証システムが構築され、はだのブランド認証審査会などによる条件審査や現地調査を経て選ばれた6品が、第1回「はだのブランド」として認証されたのです。
14年の歳月をかけて育まれてきた“はだのブランド”は、今、新しいステージへと羽ばたきます。
リニューアルの理由と新しい審査基準

2025年10月17日、秦野商工会議所で行われた第1回「はだのブランド」認証式。
最初に壇上に立ったのは、はだのブランド推進協議会の石井時明会長です。
「この認証は、ゴールではなくスタートです。秦野には、まだまだ発信できる魅力がたくさんあります。今日が新しい一歩になることを願っています」
秦野商工会議所の会頭でもある石井会長の語り口には、長年地域に寄り添ってきた重みがありました。
令和4年から進められてきた見直しの中心には、「丹沢の杜、名水のまち」という新しいコンセプトを掲げ「秦野の自然や文化を語るストーリーそのもの」を重視する方向へと舵を切りました。
はだのブランド推進協議会は、先述のとおり地域ブランディングの専門家とともに議論を重ね、審査制度をゼロから再構築。認証審査会には、雑誌『ディスカバー・ジャパン』代表取締役社長で編集長の髙橋俊宏さん、お菓子研究家の福田里香さん、カリスマバイヤーの山田遊さんとそうそうたるメンバーが参加しています。
髙橋さんは会場でこう語ります。
「今回の審査は、外部のプロが現地を訪れて、作り手と直接対話を重ねながら行うのが特徴です。ここまで丁寧に現地を見て審査するブランド認証は、全国でもあまり例がありません。実際に現場を訪ねて感じたのは、“秦野のレベルの高さ”です。どの商品にもそれぞれの物語が息づいていました」
今回の審査は、令和7年4月から6月にかけて22点の応募を受け付け、7月に行われた第1次審査(条件審査)で11点が通過。8月には第2次審査(認証審査)が実施され、最終的に6品が認証されました。
審査員の3名は「どの事業者も、素材への敬意が丁寧に表現されていました。特に“水の清らかさ”が味や香り、仕上がりにそのまま表れているのが印象的でした」「丹沢の自然を生かしながら、全国に通用する商品としての完成度が高い。このブランドは、単なる地域認証ではなく、未来に続く文化そのものを評価していると感じました」と応募された品々のレベルの高さに驚いていたそうです。
新しい審査基準では、“秦野魂”と呼ばれる地域への愛着や社会的責任、持続可能な取り組みを重視。
加えて、独自性・デザイン性・知的財産・販売戦略・地域貢献・多様性など、10項目にわたる視点で総合的に評価されました。 髙橋さんは、「これからのブランドづくりは、事業者と市民、そして行政が一体となって進めていくことが大切」と語り、会場で聞いていた記者にもその言葉が深く響きました。
“秦野らしさ”を磨き続ける挑戦は、すでに新しい世代へと受け継がれています。
新ロゴマークに込められた想い

認証式の会場に入ると、正面にひときわ目を引くパネルが設置されていました。
そこに描かれていたのが、新しい「はだのブランド」のロゴマークです。
訪れた関係者や出席者は、開式を待つ間、そのデザインの意味を確かめるように見入っていました。
まちの新しい“顔”として、この日初めて市民と事業者の前にお披露目された瞬間でした。
このロゴを手がけたのは、デザイナーの川路あずささん。
東京藝術大学を卒業後、出版社やデザイン会社で経験を積み、現在は福岡と長崎を拠点に活動しています。
地域の文化や自然に寄り添いながら、土地の“らしさ”を形にするデザインで知られ、「JR九州 九州観光まちづくりAWARD」など、全国各地のまちづくりに携わってきた実力派です。
川路さんが目指したのは、ブランドコンセプト「丹沢の杜、名水のまち」を、ひと目で感じられるデザイン。
モチーフとなったのは、全国で唯一「秦」の字を冠する秦野市。
そのまわりを囲む「の」は、丹沢の山々が秦野盆地をやさしく包み込む姿を表し、さらに跳ね上がる部分には“開かれた門”という意味が込められています。
「ようこそ秦野へ」という思いを形にした、温かく迎え入れるデザインです。
「ブランドのロゴは、まちの心を映す“顔”のようなものです。市民にとっても誇りに思えるようなデザインにしたかった」と、秦野市はだの魅力づくり推進課の担当者が話してくれました。
ロゴマークは単なるデザインではなく、まちと人をつなぐ約束のかたち。
その中心には、秦野が大切にしてきた水と森、そして人の想いが息づいています。
「森」「水」「人」がつなぐ、6つの“秦野のかたち”

リニューアル後、初めての「はだのブランド」に選ばれたのは、秦野の自然と人の営みを象徴する6つの品。
いずれも、“丹沢の杜、名水のまち”というコンセプトを見事に体現しています。
認証式の会場では、事業者一人ひとりが登壇し、誇らしげにその想いを語る姿があり、秦野という土地がもつ底力を強く感じました。
里山の恵み──欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ(株式会社川上商会)

鶴巻温泉の地域に伝わる食文化を受け継ぎながら、里山の恵みを生かした「欧風 猪肉・鹿肉入りソーセージ」。
日本を代表する一流ホテル勤務経験をもつ代表が監修し、粗びき肉の力強い食感と香り高いスパイスが絶妙に調和。上品にまとめられたクラシックなパッケージも印象的です。
代表の川上拓郎さんは、「6つの認証品のひとつに選ばれたことを光栄に思います。
秦野の魅力を広く伝える責任を感じ、ここを出発点として、より良い商品づくりに励みたい」と語りました。 地元の味を現代に継ぎ、里山の恵みを食卓へ。秦野の“食の誇り”を未来へつなぐ一品です。
水と技の味わい──あしながきのこ蕎麦(有限会社そば処丹沢そば石庄)

丹沢山麓に店を構える名店「石庄庵」。
自家農園や契約農園で栽培した秦野在来種の蕎麦の実を石臼で製粉し、熟練の技で打ち上げる麺は、洗練された端正な味わいが魅力です。
地元でも希少な“あしながきのこ”を使い、独自の冷凍保存庫で通年提供を可能にした努力も高く評価されました。
店主の石井貞男さんは、「素晴らしい認証をいただき誇りに思います。
丹沢の緑と水の清さに惹かれて訪れるお客様の期待に応え、これからも蕎麦づくりに励みたい」と語ります。 丹沢の自然と人の手が織りなす、旅の目的になる一杯。
その香りと喉ごしに、蕎麦職人の誇りが伺えます。
森との共生──丹沢MONクロモジ・アロマウォーター(丹沢MON合同会社)

丹沢の森に自生するクロモジを、丹沢の清らかな湧水で蒸留した100%天然のアロマウォーター。
採取から蒸留、充填まですべて手作業で行い、森に寄り添う製法が貫かれています。
代表の平野有恒(ゆうこう)さんと蒸留所長の桐生克明(かつあき)さんは「丹沢のクロモジを日本を代表する産業に育てたい。山の恵みを持続的に使い、行政や森林関係者と協力しながら森を守っていきたい」と受賞のコメントで語っていました。
丹沢の森と名水の恵みを香りに込めた一品は、新しい“はだのブランド”を象徴する製品です。
水の恵み──komeama plain (甘酒)(komeama®)

秦野の名水に惹かれ、移住して開業した山崎綾乃さんが手がける甘酒「komeama plain」。
丹沢の湧水と選び抜いた米だけで仕込むため、加熱処理をせず酵素や栄養素をそのまま摂ることができる甘酒です。
やさしく上品な甘みが特長で、アスリートや女性を中心に人気を集めています。
「おいしい水を求めて秦野に来ました。甘酒にはお水の力が本当に大きい」と認証式で語る山崎さん。
全国の米を、日本一おいしい水で仕込むという信念のもと、日々丁寧な醸造を続けています。 “名水のまち”が生み出した味として、多くのファンを惹きつけている甘酒です。
名水の誇り──おいしい秦野の水 ―丹沢の雫―(秦野市上下水道局)

今回、公共で初の認証を受けたのが、秦野市上下水道局の「おいしい秦野の水―丹沢の雫―」。こちらは「名水百選」選抜総選挙おいしさが素晴らしい名水部門で全国第1位に選ばれています。
ボトルに詰められているのは、適切に飲用処理した秦野の地下水です。
「この水には、先人たちの誇りと市民の思いが込められています」と語るのは、秦野市上下水道局職員の山口幸也さん。 市民が毎日飲む“生活の水”を、改めてブランドとして発信することで、
秦野の名水文化を次の世代へつなげていきたいという願いが込められています。
森に息づく時間──丹沢ゴッド・オブ・マウンテン(緑茶工房わさびや茶園)

丹沢の麓、山の神(祠(ほこら))が見守る茶畑で育まれた和紅茶「丹沢ゴッド・オブ・マウンテン」。
昭和30年に植えられた在来実生園を受け継ぎ、今では全国的にも希少となった在来種の茶葉を使っています。
水色は明るく澄んだ紅色で口に含むとやさしい甘みが広がる和紅茶です。
全国の和紅茶を飲み比べてきた審査員が「これまでで一番おいしい」と絶賛した逸品。
代表の山口勇さんは、「茶業を始めて70年、紅茶づくりを始めて25年の節目。丹沢の自然を大切に、茶畑を守り続けたい」と認証式で語っていました。 丹沢の森が育てた時間の味わい。その一杯には、自然と人が紡いできた70年の物語が息づいています。
ブランドのこれから 「丹沢の杜、名水のまち」から未来へ

認証式の最後に登壇したのは、「はだのブランド推進協議会」名誉会長でもある高橋昌和秦野市長。
静かに語りはじめた言葉に、“秦野らしさ”への深い誇りがにじんでいました。
「秦野市は地域の52%を森林や里山が占めています。その資源によって涵養された地下水は、芦ノ湖の約4倍もの水量を誇る天然の水がめ。全国名水百選にも選ばれたこの水は、まさに私たちが全国に誇るべき財産です」
高橋市長は、披露された新しいロゴマークを「秦野の旗印」と呼び、
「作る人、伝える人、応援する人がつながり、まちの魅力と誇りを発信していく象徴」と位置づけました。
その言葉に、会場の空気が一層引き締まり背筋が伸びるのを感じました。
「市としても、積極的にプロモーションを仕掛け、はだのブランドがチャレンジする事業者の後押しとなり、はだのブランドの魅力をさらに磨いていきたい」
高橋市長の力強いメッセージが、記者の胸にも深く響きました。 今後、「はだのブランド」は、雑誌『Discover Japan』1月号への掲載や、渋谷パルコ1階でのポップアップ展示販売など、全国へ向けた発信を予定しています。
丹沢の杜、名水のまち。その言葉に込められた“人と自然の共生”という理念が、いま、確かな形となって歩みはじめました。
認証式に立ち会った記者の目に映ったのは、地域の誇りを胸に、新たな未来へと踏み出す人々のまなざしでした。
はだのブランド
公式HP https://www.hadano-brand.jp/
はだのブランド推進協議会
【事務局】
秦野市環境産業部はだの魅力づくり推進課
〒257-8501 神奈川県秦野市桜町1-3-2
TEL:0463-82-9036
E-mail:info@hadano-brand.jp
【共同事務局】
秦野商工会議所 地域産業振興課
〒257-8588 神奈川県秦野市平沢2550-1
E-mail:info@hadano-cci.or.jp




